不穏な姿

居た。…やっぱり同じ色してやがる…

気配を消して空色の髪をした人物がいる木の上へと視線を向ける。コトメよりも短い後ろ髪、さらさらと風に揺れる前髪の間からは、凍りきったようなキツイ目付きが見え隠れしていた。体格からして男か…?一体誰だあいつは。まさかとは思うが……いや、その可能性はほぼ0だろ。あり得ねえ。木の葉の里では見たことのない顔、見たことのない額当ての模様、灰色の衣…あんな所で姿を潜めてるっつーことは木の葉の住人、客…とは考えにくい。だったらどうやって里内に入り込んできた?

「俺に何か用ですか」

こちらを見ることなく淡々と言い放ったそいつは顔色を変えることもなく腕組みをした。気配消してたつもりだったが気付いていやがったか…

「…ああ。木の葉じゃ見たこともねー顔してるからな」
「用事があって来ただけで、木の葉に何かしようと思って来たわけじゃないですよ」
「許可証は?」
「…」
「許可証がないんだったらお前は無断で木の葉の里に足を踏み入れたことになる。それが何を意味するか分かるか?」
「…」
「お呼びで無い敵っつーことだよ」

何も答えないそいつにそう言い放った俺は、ばばっと印を組むと自分の影を伸ばす。影真似の術、奈良家の秘術。こちらを見ていない相手の背後から攻め、そのままがっちりと捕まえる…はずだったが、それをひらりと避けたそいつはたんっと下へ降りてきた。

「木の葉の秘術使いの1人…奈良一族ですか」
「よく知ってんじゃねーか。俺はあんたのことよく知らねえけど…一体お前誰だ?」
「…」
「黙秘しても意味ないぜ。これから俺はお前を捕まえて拷問部に引き渡すんだからな」
「この里は平和ですね」
「質問に答えろ」
「‥里が平和過ぎると危機感がなくなってしまいます」
「…どういう意味だ」
「警告ですよ」
「!」

突然俺の目の前に現れたその男は、煙を上げて違う人物へと姿を変えた。

速ェ…!!全然動きが見えなかった…!!それに…変化の術だったのか…!!慌ててクナイをポーチから取り出すと姿を変えたその人物に刃先を向ける。が、その瞬間に見えたものに背中がひやりと凍りついた。考えたくもない真実。‥勝手に手が止まった。

「……お前、"それ"は…」
「あら‥?見覚えがあるってことは、"あの子"の知り合いでしたか?それはマズイですね。人との馴れ合いは悪いことを覚えると産まれたばかりの"あの子"にはちゃんと言い聞かせていたはずですが…」
「どういうことだ、…まさか」
「まだ誰にも知られる訳にはいかないんですよ。それに、"あの子"を迎えに行くのはもう少し先ですからね」
「っ!?」

俺の襟元を素早く掴み長い黒髪を揺らしながら左眼の前で片手印を組んだ人物、‥女。その瞬間見えていた景色が真っ白に染まり、頭の中も真っ白になっていくのを感じた。遠くの方で女が何か呟いていたのが聞こえた気がする。意識が途切れる瞬間に、自分の身体がどさりと倒れる感覚がした。









「あー、久しぶりに退屈な任務だったなァ、赤丸ゥ…今から修業でもするか?」
「ワウッ」
「キバ君、次は被害が残ってる住宅地のお手伝いにいかないと…」
「あー、そうだっけか…やらなきゃいけねーこととはいえめんどくせーよなー……ん?」
「?」
「あっちからシカマルの匂いがするな。最近忙しいとか言ってた癖にサボりかぁ?」
「…キバ君、あの木の下に誰か倒れてる!」
「は?」

仰向けに倒れる人物をいち早く視界に入れた任務帰り中のヒナタは、同じく任務帰り中のキバを置いて駆け出していた。それを追うようにキバと赤丸も駆け寄ると、目を瞑ったままぴくりとも動かないシカマルの姿があった。

2014.05.12

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