憎悪と復讐心に囚われている

「だ……れ……?」

振り向いた先にいた1人の男に私はごくりと唾を飲み込んだ。雰囲気がさっきまで木の上にいた人物とよく似ていて…それよりもなによりも、明らかにそうはいないだろう色の髪に目を見開いた。

「…あー、初めまして……だな。お前は」
「その額当て見たことない…一体どこの忍…!?」
「あんま喚くなっての…まぁ、喚いた所でこの"結界"の外に声は漏れやしねえけど」

結界!?ふと周りを見渡せば辺りを薄い膜が包んでいる。そしてこの結界の作りを私はよく知っていた。これは確かに日暮硯一族の空間術の結界…でもどうして。私以外に一族の人間はいない、この術は一族しか使うことができない血継限界なはずなのに…。わけも分からずに1人混乱していると、羽織っている灰色の衣をばさばさと揺らしながら近付いてくるその男に1歩後ずさる。ポーチからクナイを出そうと手を後ろに持っていくと、それを見た男の姿が突然消えると同時に目の前に現れ、手首をギリギリと押さえつけられた。

「いっ…!!!」
「別に今すぐなんかするとは言ってねーだろ…」

呆れたようにそう言葉を零す男の目に明らかな殺意が見えて、背筋をぞくりとさせる。この間の任務の時の怖さの比じゃない…!力任せにぐぐっと手に力を込めてもピクリとも動かなくて、逆にミシミシと骨が軋む音がした。

「な、んなの…!?この結界を扱える一族はもう、」
「お前だけだな。…俺を除いては」

そうはいない空色の髪を揺らしながらはっきりとそう告げた男は、もう片方の手で私の結った髪紐ごと髪の毛をぐいっと掴んだ。俺を除いてって…どういうことなの…その私とよく似た髪の色や術…何もかもがこの男を日暮硯一族なんだって言ってるみたいじゃない…!

「離してよっ…!!」
「兄貴に向かってあんまりなんじゃねーのかよコトメ」
「そんなのあんただっ……て…今、いま…」

今、なんて。思わずピタリと動きを止め思わず目を丸くさせた。なんで私の名前、知ってるの…?それに私の故郷は滅んで、もちろん日暮硯一族と名乗ることができるのも私1人だけで……確かに兄はいるとロンさんにも綱手様にも告げられた。信じられない。信じたくないとかじゃない、本当に信じられなかった。でも…それがもし本当ならどうして生きているの?どうして今まで私に会いに来てくれなかったの?どうして私を今にも殺してしまいそうな目で見るの…?

「信じられないならそれでもいいが…1つ忠告しておく。俺はお前の兄だからと言って馴れ合う気はねえしむしろ殺したいくらい憎んでる」
「な……ん…」
「産まれてもいなかったお前が散々一族の宝だと持て囃され、俺は一族の中でも類を見ない程の忍だと言われていたのに蔑まれた。…ただ"男"なのか"女"なのか。たったそれだけで俺は器として認められなかった」
「う、つわ…」
「もう知ってるだろ、自分が青龍の器だってことは」

綱手様に告げられた過去と目の前にいる男の話がリンクして、思わず口を閉じた。嘘かもしれないと考えても、男の様子から漏れてくるのは憎いという思いと確かに一族を知っているという言動。痛みが増す腕と引っ張られている髪。頭を思い切り振って髪の毛から手を離させると同時に、ぱさりと落ちた茜色の髪紐が落ちた。

「今となっては器なんてどーでもいいけど」
「っきゃ…!!!」

口元を歪ませて笑う"兄"と名乗る男はそのまま掴んでいた腕を力一杯放り投げると、私の体はあっという間に凄い音を立てて結界の壁へと吹っ飛ばされていた。

2014.05.05

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