着飾った看護婦

あんなタイミングで鉢合わせるなんて、どうしたらいいか分からないと驚いたあまり、逃げるように火影室を出た私は木の葉病院にある暗部専用の扉を押した。

暗部の者は素顔も名前も隠し、火影様からコードネームを受け取り任務を遂行する。任務内容は文字通り暗殺が多く、その仲間達に普段から狙われるのを防ぐ為だ。もちろん誰にも素性はさらすことはできないので病院でももちろん面が必要となり、当たり前のように一般の病棟とは分けられている。ぺたぺたと廊下を歩き受付を済ませると、周りには何名かの暗部が装束に血を染み込ませて座っていた。

「任務お疲れ様です〜!兎の面ってことはアナタが綱手様の言ってたコだよねえ!こっちにどうぞお〜!」

突然響いた、この場所とは不釣り合いな程明るい声を上げる看護婦に手を取られ治療室へ案内された。私はどうやら5代目の計らいですぐに治療をしてもらえるようで、包帯を巻いているから見えないが、脇腹の傷が化膿して見るにも堪えないと思っていた所だったので助かったと胸を小さくなで下ろした。

「こっちの痣はちゃんと栄養取ればすぐ消えると思うから、とりあえず脇腹の包帯取りますねえ。ひゃあ、雑な巻き方…おねーさん、一体何処へ任務に〜?」
「暗部の任務は極秘情報になります。それくらいここの看護婦を勤めてるなら分かっているでしょう。……裸も見てないのにどうして女だと…」
「ん?まぁ〜そりゃあ私も女ですからねぇ、それに男の人とは声も見た目も違うモノですから!…あらら、酷いなあこりゃ…切られた時になんか細菌感染しちゃってるわ、化膿してる…ちゃちゃっと悪いの取っちゃうからねえ!ハイ、そこに脇腹上にして寝転がって〜」
「貴女看護婦ですよね、医療班の方は…」
「人員が足りてなくてえ、まあ、こんな格好してるけどセナは立派な医療忍者だから任せてえ!」
「…」

鮮やかなオレンジ色の髪にふわふわしたパーマを施しているのだろうか、その上から看護帽子を被った目の前の女性は満面の笑顔を向けてはいるものの、キレイなネイルアートが施された手や化粧、微かに香る香水の匂いが目に映り、余りにも病院(しかも暗部専用)とはかけ離れた容姿と言動に、私は不安になって顔を引きつらせた。

「…なんというか、他の医療忍者さんはいらっしゃらないでしょうか」
「え!なんで〜!?早くしないとそれはまずいやつだから!あ、ダイジョーブ!すぐ終わるし、ちょっと痛いと思うけどお!」
「……」
「…あ、あ〜、ナルホドね。セナこんなんだから出来なさそうに見えるんだけど、こう見えても綱手様のお墨付きなんだよお、じゃないとわざわざ綱手様に兎の面の暗部を見てやれ〜なんて言われないでしょ〜?」

まあそれもそうか。妙に納得した私はポーチを椅子の上に置き、渋々隣のベッドに寝転がると傷を上に向けた。少し瘡蓋になってた部分が少し開いてしまったのかズキリと痛む。しかし5代目を疑うわけではないが、本当にこの人で大丈夫なのかと見上げると、ほんの一瞬だけ悲しそうな顔をした看護婦さんが脇腹部分に手をかざしていた。

「…あ…っぅ、」

ジリジリとした痛みが襲う。恐らく細菌を取り除いているのだと思うが、太い針で刺されているみたいだ。何分か後、何かが体内から出てくる感覚がしてギリリと歯を食いしばっていると、看護婦さんが少しだけ真面目な声を出した。

「…かなり少量だけど、毒が武器に仕込まれてたんじゃないかなあ」
「っ、毒…」
「抗体ができてるみたいで少量だし全然大丈夫みたいだけど、前にも同じモノ受けたことあるのお?」
「…以前、任務で」
「ナルホドねえ……ん?」

少しずつと痛みも引き始める。5代目が言うだけあって短時間でだいぶ良くなったことを伝えようと顔を上げると、看護婦さんの目線は脇腹ではなく先程私が座っていた椅子に注がれていた。いやまだ一応治療中なんですけどと呆れていると、器用にもまだ治療を続けながらある1点を見つめている看護婦さんは、嬉しそうに目を細めた。

「……そっか、なんだあ、貴女のことだったんだねえ!良かった、これでセナも安心したよお〜!」
「…………は?」

突然嬉しそうに笑う目の前の看護婦さんに、やはりこの人はよくわからない人だと確信し、小さく溜息を吐いた。

2014.01.22

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