貴方のハートは誰の物?

「分身の術なんざ一気に片付けちまうぜェ!!」

牙と爪でかき消されていく私の分身の姿に背中を身震いさせた。ロンさんにかかったら私なんて虫ケラ同然だろう、ていうかこの人分身だろうが本物だろうが関係なく殺ってるよね?シカマルも若干顔が青ざめてるし…

「テメェが最後の1人だろ?起爆札なんて持って自爆がお好みかァ?」
「ひ、」

ぎらりと光る白い刃が視界に入って足が竦む。が、ギリギリまで引きつけないと意味がない…!でもロンさん怖すぎる…でも…!!

「おらああァァ!!」

飛びかかってきたロンさんの真下に起爆札付きクナイをグサリと投げると同時に体に大きな爪が食い込み、腹部を貫く。そしてその瞬間、ドカン!という爆音が響き渡り真昼以上の明るさに目を顰めた。

「ナイスコトメ!!」
「…!!」

ロンさんに貫かれた私の体はぼふんという音と同時に消えて無くなり、それを視界に入れた私は木の上から姿を出すと、先程シカマルからこっそりと受け取ったチャクラ刀を投げロンさんの死角からシカマルが影首縛りの術を発動した。起爆札とチャクラ刀を使った理由は相手に傷を負わせようとしたわけではない。ロンさんの近くに起爆札を仕込み、同時に目の前から投げたチャクラ刀へ気を向けてもらう為だ。そうでもしないとシカマルの術に勘付かれてしまう。それで私は分身の術でおとりになっていた、というわけだ。もちろん全てシカマルの作戦である。

「影首縛りの術…成功、っと…」
「…成る程、起爆札とチャクラ刀はテメェの術を成功させる為のコマだったわけか…ケッ、そこのメンズは嫌味なくらい頭が回る…」
「やったー!!ロンさんの捕獲成功ー!!」
「おいコラ!!シキミの娘、テメェが捕まえてるわけじゃねェだろうが!!」
「うっ…」

的を付かれてロンさんに怒鳴られた私は落ち込むようにずううんと背を項垂れさせた。

そんなこと言われなくても分かってるよ…どーせ作戦たてたのもシカマルだし。私1人だったら絶対に太刀打ちできない相手だった。むしろロンさんを口寄せ出来てしまっていることが究極に珍しいことなのに…今にも涙がほろほろと零れそうな気持ちで突っ立っていると、シカマルが術をかけたまま口を開いていた。

「最初に2人でかかってこいっつったのはアンタだろ。観念して秘術教えてやれよ」
「‥テメェ誰に向かって口聞いてんだメンズのガキ!」
「なんでどいつもこいつも口悪ィんだよ…」
「日暮硯一族の秘術は扱いが難しいんだよ!!シキミの娘、テメェはまだ色んなスキルが足りねェ!体力、精神力、実力…そんなんじゃまた他人傷付けちまうのがオチだ!昔みたいになァ」
「っ…」
「昔?」
「なんだよ、お前知らねェのか?コイツは1度任務で仲間を殺しかけてンだよ。空間術は日暮硯一族でも上忍レベルの奴しか扱えない術だ。基礎的な力も完成しきってないそいつがその術を教わること自体がナンセンスなンだよ!」
「……」
「でもロウさんは教えてくれてたもん!!」
「ロウは日暮硯一族がお前しかいないから焦ってるだけだ!ま、"アイツ"がここに居れば焦る必要もなく、俺達も教える必要はないんだけどなァ」
「焦るって…なんで?」
「…お前な…そんなことも知らねェのか…ロウから何も聞いてねェの?」
「え、な、何も…」
「あー……分かった分かった。めんどくせェしかったりィけど話してやるよ!おいメンズのガキ、この術を解け。とりあえず修行は一時休止だ!」

シカマルはグルルと喉を鳴らすロンさんにかけていた術を解くと、時計をちらりと見て小さく溜息を吐いた。

「俺も話し聞きてェけど…もう任務の時間だ。コトメ、帰ってきたらウチに寄れ。んで今からコイツと話したこと全部話せ」
「え、ええ?なんか今日のシカマルちょっと変…そんなに人の話し聞きたがらないのに…」
「いいな」
「テメェ俺をコイツ呼ばわりとはいい度胸だな…」
「あー…ロンさんっスね、ロンさん」

ポケットに手を突っ込んでロンさんに適当な返事を返した後、真っ直ぐに目線を向けるシカマルに言葉を遮断された私は渋々頷くと、地面にささったチャクラ刀を抜いてシカマルに手渡した。

やっぱり今日のシカマルはなんか変だ…突然修行一緒にするって言ったり、話し聞きたいなんて言ったり…。眉を寄せていた私を嗜めるように頭にぽんと手を置いたシカマルは、少し躊躇するようにその場を離れて行った。

「…なんだァ?あんなに心配されてテメェ等アレか?コイビトってやつか?」
「ちっ!?ちがっ!!」
「なんだよ、じゃあメンズのガキがテメェのこと勝手に好きなだけかよ。面白くねェの…つーかテメェも満更じゃなさそうだな」
「そそんなこといいから理由を教えてください!!」

シカマルが?!私を好き?!いやそれはないない!!それは、それは…でも、なんかすごく心配されてる感はあった…けども!両手を顔の前でぶんぶんと振りながらロンさんの言葉を真っ向否定しながらも、私の思考は一気にシカマルのことで頭がいっぱいになっていて。そうだったらいいなとニヤける顔をべしりと硬い肉球で叩かれた私は、慌ててロンさんへと視線を寄せた。

2014.03.29

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