影2人、

「……ル…シカマル?どうしたの?」
「あ、ああ、悪ィ」

肩にくるくると包帯を巻きつけていた手を途端にぴたりと止めていたシカマルは、私の声に気付くと慌てて我に返ったように口を開いた。急に押し黙っちゃって一体何考えてたんだろう……なんだか少し気まずそうに頭を掻いているシカマルは、グローブがされている私の腕にちらりと目を向けたものの、すぐに反らせた。

「あ、包帯ありがとね!」
「おー」
「…シカマル?」
「おー、なんだ」
「…病院でなんかあった?」
「まァ、ちっとな……野暮用だよ。お前が気にすることじゃねえ」
「そっか…」

胸ポケットに入った巻物や忍具の確認をするシカマルに、大変なことでもあったのかなぁ‥と考えながら、自分の肩の部分に残った服の切れ端を使ってはだけないようにぎゅっと結ぶ。何を考えこんでいるのかシカマルは眉間に皺を寄せたまま地面に目を伏せていて、声をかけにくくなった私はそのまま何も言えなくなってしまった。

なんかちょっと変だけどそんなに気にすることでもないのかな…多分。ふう、と小さく溜息を吐きながら少しだけ疲れが取れた所で立ち上がると、屈伸や背伸びをしながらロンさんが降りてくるのを待った。それをちらりと視界に入れたシカマルは、突然私の目の前に立てた人差し指を向ける。え…よく分からないんですけど…と首を傾げているとシカマルがニヤリと口角を上げていた。

「あと1時間だ」
「へ?な、何が?」
「俺はもうすぐ任務に出なきゃなんねえ。だから残り1時間であの狼を止める、で、この修行は終わりだ」
「え?!でも私シカマルが任務に行っても修行は続けるよ?!」
「バーカ。いまやってる修行を終わらせるってことだよ。お前一族の秘術教えてもらいたくて口寄せしたんだろ?大体今やってる修行は俺が任務に出るまでに終わらなくても続くんだろーが。2人でこれだ、1人じゃ余計どうにもなんねえのは目に見えてる」
「うう…仰る通りです…」
「だったらこんなのさっさと終わらせるぞ。
…秘術修行やっててもらった方が狼もちゃんとコトメのことを見てもらえる、そっちの方が安心だ…」
「え?何?」
「なんでもねえーよ。とにかくこの狭い敷地でアイツをどう止めるかだ…コトメちょっと来い」
「う、うん!」

ぼそぼそと何かを呟いたシカマルにとたたっと駆け寄ると、私に近寄ってこそこそと耳打ちを始める。距離が物凄く近いけどドキドキはしてられない…確かにこれをクリアしないとロンさんから空間術は教えてもらえないんだから!

シカマルが立てた作戦を頭に入れると、私も忍具が入ったポーチの中身を確認し合図するかのように首を縦に振る。それと同時に、木の上で寝息を立てていたはずのロンさんが地面に降り立った音がして慌てて振り向いた。ちょ、ちょっと待って、なんかさっきよりやる気満々…ていうか殺る気満々…!?べろりと自分の爪を舌で舐め上げながら鋭い眼光を向けるロンさんは、どうやら私とシカマルがどうにかして止めようと作戦を練っていたことに気が付いていたらしい。そうか、狸寝入りか!そうは思ってももうやるしかない。やらなきゃ、殺られる!(いやもうほんとこれ仲間としてどうなの、くらいの殺気)

「どうやらやっと立ち向かう気になったらしいな、寝てたかいがあったぜ!」
「ったく…起きたのかよ…」
「安心しろ、手の内までは聞いてねえからよォ」
「そりゃよかったぜ。作戦内容まで聞かれちゃ打つ手もねえ所だ…コトメ、動けるな?」
「う、うん!」
「準備万端ってか?今度こそ殺す気でこないとほんとに殺しちまうぜ!!」
「さっきも殺す気あったじゃないですかっ!!」
「来るぞ!」

ばばっとクナイを構えるとシカマルの声に反応するように素早く印を結ぶ。1人、2人…ぼんぼんと増えていく分身を視界に入れながら、私はポーチからそっと起爆札を取り出した。








「いつまで見ているつもりですか?」
「…別にいいだろ、減るもんじゃない」
「時間は確実に減っていきます。貴方はいいかもしれませんが私は全員を監視しないといけないんですよ。いいですか?私は暇ではないんです」
「……」
「…それにしても噂は本当のようですね。日暮硯一族始まって以来の弱小忍者…貴方とは似ても似つかない」
「一緒にするなよ。あいつは出来損ない、俺とは違う」
「そのようですね…疾玖、もう行きますよ」

演習場で繰り広げられる狼と忍2名の戦いに呆れながら愚痴を零す疾玖(トク)と呼ばれた男は、舌を打ちながらもう1人の女に窘められるようにその場を後にした。

2014.03.28

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