過去と真実

「まだいたのか、カカシ」
「五代目、ウミは…」

難しい顔から一転、呆れたように笑みを見せる五代目にどうやらウミさんの方は大丈夫らしいことが伺える。が、カカシ先生は酷く動揺していた。あのコピー忍者のカカシと名高いこの人が、こんなに焦りを露わにするのは初めて見た。

「大丈夫だよ。…と、言いたい所だがな…とにかく2人共顔を貸せ」

そう言って廊下の突き当たり奥にある、人気のない場所へと足を進める5代目にぺたぺたとついていく。やっぱり"刻印"の方は俺の予想通りだったか…軽く溜息を零すと5代目の言葉を待った。翡翠ウミさん、ねえ…よく分かんねー術使うしイマイチ掴めねェ人なんだよな。まあ、1回しか会ったことねーし当たり前なんだけど。

「…15カ所に及ぶ刺し傷、抗生剤治療、毒抜きは終わった。痺れや呼吸器の乱れ、吐き気もそのうちなくなるだろう…だがその毒は、ある木の葉の忍が開発したものだった。だから、並の医療忍者では治療が難しかったんだ。この世でアイツをよく知ってるのはもう…私くらいだからな…」

苦い顔を浮かべながら1つ1つ丁寧に説明する五代目の言葉にぴくりと目が動く。ある木の葉の忍が開発、この世でアイツをよく知ってるのは5代目くらいっつったらもう…いや、だとしたらおかしいだろ。

封印部屋に遺された1人の忍の姿を思い出す。ぶっちゃけそいつの死体も先日確認したばかりだった。何人かにまだ呪印を残しているそいつはまたいつ誰かに転生されるか分からない。故の策が、封印部屋に入れることだった。

「…大蛇丸ですか」
「そうだ」
「5代目、それはどういう意味ですかね?今木の葉にある封印の部屋に大蛇丸が戦争で死んだ時のままの死体がある。禁術である穢土転生をもし誰かが使えたとしても、復活させることは不可能っスよ」
「別に大蛇丸がやったことだと言いたいわけじゃないさ。大蛇丸の"知識"を受け継いだ者がいる、ということ。部下を拡散させてた大蛇丸のことだ、その可能性はある。…問題は次だ。シカマルには少々伝えたと思うが、ウミの右肩上に百合の花のような"刻印"があった。私も見たこともない術式のような物で、そっちの方が厄介だった。ウミは大蛇丸からの重複した毒に一度やられていることがあるそうでな、毒に関しては耐性があるはずなんだ。それが今回はよく効いていた……そして、もう一つ。これは機密事項だが…シカマル、お前も知っていた方がいいからよく聞け。ウミは神獣の封印の器でな、あの体にとんでもないチャクラの塊を持つ獣を飼っている」
「神獣?って、神話に出てくるやつっスか?」
「ああ。この世界に五行を創生したと言われる生物だ。神話、伝説…存在しないと考えられているが、それを、ウミの生まれ故郷"光の国"のとある一族達が守ってきた。自分達の一族で力の強かった人間を器に選んでな」

ちょ、待てって…そんなに一気に聞かされても‥。五行を創生した生物、神獣。やけにスケールのデカイ話しに俺はごくりと生唾を飲み込んだ。大体光の国って俺が産まれるより前に無くなったっつー話しをちらっと聞いたことがあるけど、それがウミさんの故郷だってのか…俺が今だ頭の中を整理している中で5代目は続きを口にした。

「しかし、器であるからにはもちろん封印を解除する術もある。尾獣と違って、神獣は器を慕い手助けする為に力も貸したりすることも珍しいことではない。まあ、ほとんどのやつはよっぽど好戦的ではないらしいし、図体がデカすぎるだけでなんの問題もない。が…その神獣を封印する封印式の上から、封印を解けないようにする封印式があった」
「封印式の上から封印式?」

封印を解けないようにする封印式…だったらもうその答えは簡単だ。その神獣の力ってのを使わせたくないから印をつけた。呪印っつーのは要は"呪い"だ。だからそれはやはり呪いの印…5代目もカカシ先生もそれを確信しているようで、眉間に皺を寄せていた。

「…成る程な。その神獣とやらの力を使わせないように封印式を重ねたってことっスね?その封印式は刻印で施された物。そして、毒に対する耐性が低くなってしまったのも、神獣が器を助けていた部分がなくなってしまったから起きた」
「つまり…"刻印"は"呪印"と考えざるを得ないと…」
「…そうだ」

深い息を吐いて頭を抱えた5代目に、カカシ先生はギリッと奥歯を噛み締めていた。集中治療室から何人かの医療忍者がドアから出て来た所を見ると、もうウミさんの体調自体は安全牌なんだろう。ちらりとカカシ先生を盗み見るとその場からピクリと体を動かさずに止まっていて。それを見兼ねて溜息をついた5代目がパン、とカカシ先生の肩に手を置いた。

「後はウミが目を覚ましてから話しを聞こうと思ってる。カカシ、お前は今日も任務だろ」
「…はい」
「また何か分かったら伝書鳩でも式でも飛ばして教えてやる。サッサと行け」
「……分かりました」

5代目に視線を向けたままカカシ先生はそこから消えた。なんとなくだが、5代目はどうやらここに俺だけを残したかったのか「やっといなくなったか」とでも言うようにヤレヤレと肩を窄めている。俺も今聞いた話しから5代目に聞きたいことが山程あった。

「…俺だけここに残したのは、他にも理由があるんですよね」

封印の器。それを5代目は守っていた一族"達"と言っていたっつーことは。他にも封印の器がいるってことだろ…?おかしいとは思ってた。説明不可能な点もあるにしろ、秘術を持つ奈良一族の隣に小さな家を持つ1人暮らしの女の子…日暮硯コトメ。でもかーちゃんもオヤジも昔から知ってっから然程気にすることでもねーのかって頭の隅に追いやってた。俺の考えていることを見抜いたらしい5代目が、観念したように口を開く。

「お前、"アイツ"の左腕から甲までビッシリと施された刺青模様のことを知りたがっていたな」
「…そりゃあ…」
「力で言えば確かに弱い。が…"アイツ"の中には神獣の中で気性も荒く力も1番強い獣が封印されてる」
「…ちょ、待ってくださいよ…コトメも封印の器だって言うんスか……?」
「ああ。アイツは紛れもなく光の国、コウの里出身の一族の1人。お前もさっきの話しを聞いてて薄々感じてたんじゃないのか?」
「予想と確信は違いますって!それに…そしたらコトメの歳はおかしいっスよね?光の国ってのは俺が生まれる前に無くなった国だって聞きました、コトメは俺と同じ歳ですよ…!」
「当たり前だ……コトメは出産予定日よりも随分早く母親の胎内から無理矢理取り出されたんだからな…」
「……………は?」
「本来なら神獣は心臓部分に封印させるそうらしいが、まだ赤ん坊にもなりきれていなかったコトメには負荷がかかりすぎる。そこで負荷にならずに済む場所、"手の甲"に封印するはずだった…しかし、アイツの中にいる神獣の力がデカすぎてな…甲から左腕ほとんどに刺青のような封印術の痕を残してしまった、それがアレだ」
「封印の器ってのは強い者が選ばれるんですよね?コトメは…」
「…封印の器は代々女が選ばれるそうだ。そこまで理由は分からんが…日暮硯一族は女の子に恵まれなかった。コトメには兄もいたらしいがそいつに封印はできない…日暮硯一族で若い女は唯一、日暮硯シキミのお腹にいたコトメだけだったんだよ」
「器ってのは母親じゃダメだっつーことか…?」
「そうじゃない。あの頃の光の国は…とある国を潰す為、全勢力を結集させていたんだ。その時に新しい封印の器達を木の葉に預ける為、無理矢理コトメを腹から出した……いつ自分達が死んでもいいようにな」

俺は5代目から聞かされた事実に目を見開いた。意味、わかんね…コトメが光の国出身?封印の器?‥兄貴?いつも隠すように左腕を覆うようなグローブをしていたコトメは、いつも笑顔で過ごしてたように見えて1人でいる時はどこか悲しそうだったのは‥俺の考えすぎじゃなかった。一体どこまで自分のこと知ってんだ…?つーか俺はアイツの近くにいながらなんも分かってなかったってのかよ、畜生…

「シカマル。お前のことだから分かっていると思うが、コトメも封印の器である以上危険がないとは言えない…それに、コトメを受け入れたのは他でもないシカクだ。だから奈良一族の近くに住んでいるんだよ」
「オヤジが…?」
「ああ。だからこそお前もシカクの意思を守ってやれ」

5代目の強い目に射抜かれ一瞬怯むように目を寄せるも、1度目を閉じて心を落ち着かせた俺はすうっと目を開いて5代目の目を見据えた。

「‥オヤジの意思だから守るんじゃねーっスよ…コトメは"木の葉"の忍で俺等の"仲間"だ。めんどくせーけど…アイツは俺の意思で守らせてもらいますよ」


2014.03.27

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