道標

「もう行くのか?風の国に泊まって行けばいいんじゃねーの?金なら出すし」
「生憎ですが、私達明日も任務がありますので」
「残るのは白魚上忍だけでいいし、なんだったら火影にでも頼むからよ!」
「殿方の頼みであってもお受けできません。では皆さん、帰りましょう」

なんとかハヤさんを引きとめようと頑張る王子様に呆れた目を向けていた私とナルトは、風の国を後にして駆け出すハヤさんとカカシさんを慌てて追いかけた。本当に嫌そうだったなぁ…あのふわふわの笑顔の下が怖すぎてぞっとした…同じように感じとっていたのかナルトもぶるりと体を震わせていた。

「こええ…あの金持ち王子もよくやるよな…」
「分かるよそれ…でも確かにすっごい美人だからなぁ、ハヤさん。男の人なんてころっと騙されちゃうんじゃない?あ、いや、ハヤさんが悪い人って言ってる訳じゃないからね!」
「俺男だけど、ハヤさんよりもサクラちゃんとかヒナタの方が可愛く見えるってばよ…」
「サクラも相当怖いけどね…ヒナタは分かるなぁ」

前を歩くカカシさんとハヤさんを視界に入れてナルトの言葉に相槌を打つ。今日の任務にナルトがいてくれて本当によかった。ハヤさんとカカシさんとスリーマンセルなんていうことになっていたら落ち込み方半端なかったと思う。抜忍の気配にも気付けずまともに敵の相手も出来たもんじゃなかったし…ナルトも凄い忍だけど同期である分いくらか楽だ。ざくざくと足を進めていた先、ハヤさんと会話をしていたカカシさんの歩くペースがゆっくりになったと思ったら、はっとしたように突然私達を置いて駆け出した。

「は!?え、ちょっとカカシ先生!!急にどーしたんだってばよ!!」
「悪い、先に戻っててくれ!」

もちろん直様反応したのはナルトで、慌てて声をかけたが猛ダッシュでその場からいなくなってしまった。変な沈黙が包んだがカカシさんのことだから大丈夫だろうと思ったのか、早く里に戻れるように足を急がせたハヤさんを懸命に追うのだった。








「何ウチに来て早々落ち込んでんだよ」
「シカマル…」

里へと帰還した後なんとなく奈良家に足を運んでいた私は、ヨシノさんに近くのお店へ行く間だけシカマルと2人で留守番しててくれないかとお願いされ、こつんと机に顔を突っ伏していた。隣では将棋盤を手に、パチパチと駒を進めるシカマルの後ろ姿がある。シカマルは今日みたいな任務以上のことこなしてるのかなぁと思うと溜息しか出てこない。

「なんだ、今日の任務上手くいかなかったのか?」
「んー…上手くいったと言うかをいかなかったと言うか…自分の力の無さに絶望したね…」
「なんだそりゃ」
「だってナルトもカカシさんもハヤさんもすっごく強いんだもん。しかも暗部の人にまで助けられちゃうしさ…」
「暗部…?今日どんな任務だったんだよ」
「王子様護衛任務。もうすっごい大変だった!私だけ死にかけるし、王子様はハヤさんにべったりだし!私がいる意味はぜーんぜんなかったね」
「…」
「無力すぎて泣ける…」
「…別に頑張ってないわけじゃねーんだしいーんじゃねーの?あんまめんどくせーこと考えんなって」
「めんどくせーって…考えるに決まってるでしょ!中忍にもなったんだから…」
「自分のペースでいいんだよ。他人とは違うんだし…焦ったっていいことなんかなんもねーぞ」
「…そんなの、分かってるけど…」

ぐすん、と少し鼻を啜る。その瞬間聞こえた扉が開く音に、慌てて顔を振った。ヨシノさんの前でこんな顔は駄目だ!慌てて笑みを貼り付けてくるりと振り向く。‥危なかった‥。

「ただいま、ごめんね!遅くなっちゃって!」
「いえ!ゆっくりで大丈夫です!」

シカマルはやる気ゼロに見えるけど任務はしっかりこなしてるもんな。頭もよく回るし私とは大違いだし…。大体私は血継限界もちゃんと扱えない。前も使おうとして仲間を危ない目に巻き込んだし…修行しても修行しても、ちっとも上手くいかないのだ。忍としての才能はないんだろう。いっそのこと団子屋とか忍具屋とか普通の職に転身した方がいいんじゃないかとも考えたが、左手の甲から肩までを覆い隠すグローブを視界に入れて、それは無理なんだよね…と溜息を吐いた。

「……お前の、その腕はさ…」
「え?」
「…やっぱなんでもねぇ。はァ…また聞いてみっか。めんどくせーけど…」
「なによ」
「こっちの話し………ん?」

パチッという音と共に何かの気配を感じたのか、シカマルはのろのろと窓際へ寄って行く。眉間に皺を寄せながらそそくさと戻ってきたかと思うと、将棋盤を端に寄せて畳の上に投げ出していた中忍ベストを手に取った。

「かーちゃん悪い。5代目から呼び出しみてぇだ。ちょっと病院に行ってくる」
「病院?火影邸じゃなくて?」
「今病院にいるんだとよ」
「分かった、いってらっしゃい。ご飯どうする?」
「帰ったら食べる」
「はいはい」

じゃあなコトメ。そう言って玄関から出て行ったシカマルの背中を見送った。私に何を言いかけたんだろう…もしかして‥この左腕のこと聞きたかったのかな。‥でもこれは、シカマルにも言えないことだもんね。右手でぐぐっと左腕を握りしめながら先程までシカマルが打っていた将棋盤へと視線を向け、肩を落とした。

2014.03.14

prev || list || next