鈍臭い幼馴染

「遅くなっちゃったけど中忍合格おめでとうコトメちゃん」
「ありがとーございます!ヨシノさん!!」
「ほら、シカマルも何か言いなさい!」
「へいへい…よかったなコトメ」
「むっ!!シカマル、今更中忍かよって馬鹿にしてるでしょ…」
「してねーし。つーか帰ってきてオヤジの仏壇にある写真がねぇと思ったらここかよ…」
「しょうがないじゃない。あの人だってコトメちゃんの中忍合格のお祝い絶対したいって言ってたんだから」

5代目にひたすら仕事を押し付けられてやっと帰宅した夜の8時過ぎ。少し賑やかそうな居間にのっそりと顔を出すと、机のど真ん中にオヤジの写真が乗せられほぼ幼馴染のような人物と俺のかーちゃんがジュース片手にケーキをつついていた。そういやあ戦争始まる前に合格したんだっけ…コトメのやつ。

空色の髪を赤紐で結っている人物、日暮硯(ひぐらし)コトメは俺ん家の隣の小さい家に住む同い年の女だ。産まれてすぐに両親を亡くし奈良家が近くだったということで昔から面倒見ていたらしい。当然俺も昔から知っている。つーわけであれだ。戦争が始まる前に中忍になったのもあり合格祝いができなかったからこうやって時間を見つけてお祝いしているらしい。…俺が帰って来る時間帯を狙って。

「じゃないとシカマル参加してくれないもん」
「そうよ。あんたのお祝いでもわざわざ任務帰りにウチに来てくれたんだからあんたもしっかり祝いなさい!ふふ、合格祝いに何か買ってもらうといいわよ〜コトメちゃん」
「えっ!ほんと?!」
「俺はそんなに高給取りじゃねーの」

なんていう俺の小言は耳に入っていないらしい2人の姿を見て深く溜息を吐いた。

オヤジが戦争で死んでからかーちゃんもかなり落ち込んでいたがそれを見たコトメが最近元気付けによくウチに顔を見せてくれていることには俺も助かっている。が、かーちゃんとコトメが揃うとなんとなく肩身が狭く感じるわけだ。まぁオヤジが居ても肩身狭かったけどな…

「シカマルは何食べたい?チーズケーキと抹茶ケーキがあるよー」
「抹茶。つーか先に飯食わしてくれ」
「ふっふ、今日はねーなんと!私がご飯作ったの!」
「げ、マジかよ…」

自慢気に語るコトメを余所に俺は口を引きつらせた。味にも多少問題アリ(嫌、かなりある)に加え毎回彩りに欠けるコイツの料理ははっきり言って食欲が湧かないのだ。かーちゃんがいる分今日は大丈夫だと思う(つーか思いたい)が…。パタパタと台所に向かうコトメを見ながらどさっと畳の上に腰を下ろすとかーちゃんがピンク色の液体を飲みながら俺を見た。

「コトメちゃん今日は美味しい鯖の味噌煮食べてもらうんだって頑張ってたんだからマズイとか言っちゃダメよ」
「わーってるけどよ、それを言っちゃうかーちゃんの方が失礼だろ…」
「私はいいのよ。母親目線なんだから」
「なんだそれ…」
「シカマル見て!今日は鯖の味噌煮定食!」
「今かーちゃんに聞い…………」

目の前に映し出されるコトメの持つお盆に乗った皿の上には。恐らく…鯖の味噌煮とワカメの味噌汁、カブの漬物。黒々と光る物体達(味噌汁は大半がワカメ)に白いはずのカブが漬けすぎなのか若干黄色くなっていた。思わずかーちゃんに「どーいうこった、これは」という目線を寄せると、苦笑いしながらもそれなりの味だからと声を出さずに告げていた。








「……」
「んな落ち込むなよ。見た目通りの味だったし」
「どーいう意味よそれ!」

あの後意を決して3品のおかずに手をつけたが味付けが濃いということプラス調味料を間違えていたらしく俺の舌が悲鳴を上げた。白米が異常に美味しく感じてしまうのは多分コトメの料理だけだろう(決して褒め言葉ではない)。

本当、期待を裏切らねぇよな…。残念な方に。後ろをとぼとぼと歩くコトメに足を止め先程隣の家まで送りなさいとかーちゃんに言われた時に部屋から持ってきた小さい袋をポケットから取り出した。これで機嫌なおんねぇかな、と小さく溜息を吐く。そんな事のために買ったやつじゃねえけど。

「…何よ」
「中忍合格オメデトウ。忙しくて渡せなかったからな」
「……………え」
「いらねえのかよ」
「い……いる!ください!!」

ばばっと俺の前に両手を広げるコトメにふ、と笑い小さい袋を乗せた。別に高価なモンでもなんでもないがたまたま通りかかった店でこの色ぜってーコイツに似合うと思って買った物だった。

「開けていい?」
「ご自由に」
「……わぁ…!綺麗な色!」

嬉しそうにそわそわしながら袋を開けたコトメに何故だか少し気恥ずかしくなって頭を掻いた。入っていたのは、髪を結ぶ用の茜色の紐。市販の物よりも少ししっかりした太い線を描いている。

「これ髪の毛縛るやつ?」
「ああ。コトメの髪色だったらその真っ赤な紐よりそっちの方が映えるだろ、夕焼け色っぽくて」
「シカマル…!」

なんかスゲー恥ずかしいこと言ってる気がしないでもないが、雲が浮かぶ空も俺が好きなモンだからな。嬉しそうに笑顔を見せるコトメに釣られて俺もはにかむ。しかしその彼女の頬が赤く染まっていることには気が付かないフリをしてポケットに手を突っ込んだ。

2013.03.01

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