僅かに恐怖した身体

「お前は何を考えとる」

とある火影邸の一室から声があがる。そこには、ご意見番である水戸門ホムラとうたたねコハルの姿と共に3代目火影であるヒルゼンの姿がある。眉間に皺を寄せたご意見番の2人に軽く溜息を吐くと、ヒルゼンは手に持っていた湯呑みを机に置いた。

「木の葉とコウは共に助け合ってきたじゃろう。ヒグレの頼みを断る理由はないと思うが」
「分かっておるのかお前は!あの5人の娘達を預かってもこちらにプラス等ない、むしろ木の葉にとっては危険要素なのだぞ!」
「特にスミレの娘は関心できぬ。"あの子"は4人と同じ場所に住ませるべきではない」
「唯一の友好条約を結ぶ木の葉で受け入れていなければコウの里に住んでいた一族の血は完全に絶たれる。それがどういうことか分からん訳ではないじゃろう」
「…」
「だったら5人を個々に隔離し封印部屋にでも閉じ込めておくべきではないのか!」
「コウの里の忍は優秀じゃ。もちろん娘達にも限りない可能性がある。来る未来、木の葉の力になるのであればそれを育てるべきではないか?」
「最悪の事態を考えて最善の処分をするべきだ、ヒルゼン」
「これは木の葉の未来の為の、最善の策じゃよ」
「…あの五人には木の葉どころか忍世界を消滅させてしまうことだってできる。特に"あの子"が人の目につくのはマズイことだと思わんか?」
「何事も運命。とにかくあの5人のことは儂に任せてもらいたいのう」

苦い顔を合わせたご意見番の2人は、いつになく頑ななまでのヒルゼンを睨みつけるも恐らく平行線を辿るこの話し合いに頭を抱えた。木の葉に危険を及ぼすとも分からない存在にご意見番がおいそれと頭を縦に振るはずもない。だからこそヒルゼンは、5人を受け入れてから数日後に2人との話し合いを設けたのだった。

「何が運命…お前はやはりちとばかり甘いぞ、ヒルゼン」
「もし木の葉を脅かすようなことがあればすぐにでも娘達の処分を決めてもらう。いいね?」
「…」
「話は終わりだよ」

これ以上話しても無駄だと思ったのか、コハルは足早に立ち上がり部屋から立ち去って行ってしまった。ホムラは一度鋭い目をヒルゼンに向けると、呆れたように首を振りながら席を立つ。

「…一癖も二癖もあるコウの里の忍、下手をすれば里の脅威にもなりかねん」
「分かっておる。じゃからこそ、信頼のできる忍に任せるつもりじゃ」
「選別を見誤るようなことは許さんぞ、ヒルゼン」
「…肝に命じておこう」

軽く笑みを浮かばせたヒルゼンに顔を緩めることなく扉に手をかけたホムラは、そのまま廊下へと消えて行った。先程まで張り詰めていた空気が解ける。背中を椅子に預けたまま窓の外に目をやったヒルゼンは煙管を手に取ると、深く煙を吸い込んだ。








「…今のは危なかったよ」
「こ、のっ…」

少し陽の落ちた演習場では、銀色の髪と栗色の髪が揺れていた。カカシの腰につけた鈴を奪い取る修業中のウミの額には、薄っすらと汗が滲んでいる。

「早くしないと時間切れになっちゃうよ。陽が落ちて鈴取れなかったら罰ゲームなんだよー、いいの?」
「…っ、」

ギリッと唇を噛んだウミは、しょうがない、と印を組んだ。まだ発動までに時間がかかるけどそうは言ってられない。カカシから少し距離を取りながら目を閉じた。

何をする気だろうか。見たことのない印に顔を顰めたカカシは、距離を置いたウミにクナイを構える。さっきからやたらと体術ばっかり使っていたけど、それは恐らくチャクラが足りなくなることを恐れてだろうとカカシは確信していた。カカシがここに到着するまでにも、修業でなのか相当チャクラを消費して疲れ果てていたのは一目瞭然だったのだ。

随分時間のかかる術だな…こんなの待ってたら埒が明かない。術を見切ろうと隠された左眼の額当てに手をかけた瞬間、すうっとウミの眼が開いたと同時にカカシはびくりと背筋を震わせた。

「な…に、お前その眼……」
「…いきますよ」

毒々しい紫の眼。写輪眼で見てもその印をコピーできないことにハッとしたカカシは、瞬身の術でウミの視界から消えた。‥恐らくは、瞳術。木の上で身を潜めながらドクドクと鳴る心臓を押さえ込んだ。迂闊にウミに近づけなくなったカカシはポーチから手裏剣を取り出すと、ウミに向かって投げつけながら影分身を1人送り込む。

一体どんな術を使ってくるのか。手裏剣に気付いたウミは軽々と避けると、その近くから飛び出してきたカカシに目を向け、印を組んでいた手を離して親指をくいっと動かした。

「秘術・炙火…っ」
「ぐうっ?!」

呻いたと同時にチャンスと走り出したウミの目の前で、ボワンと消えたカカシにウミがチッと舌打ちすると同時に、木の上にいるカカシの目が丸くなった。突然苦しく呻いたかと思えば突然消えたカカシの影分身。ウミの様子は少し親指が動いたくらいだった…ということは、指を動かしたらなんらかの術を受ける、ということか?なんとかウミの術の分析を進める為にもう1人影分身を出したカカシは、もう少し近くに移動しようと木の上から姿を消した。

2014.03.25

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