カラノココロ

第3演習場で鳴り響く鉄と鉄のぶつかる音、砂埃、炎。両者とも息を上げているが、方や1人は下忍のくノ一。なんでこんなにも全てのスキルが高いのか。汚れた口布を拭い取り去ったカカシは両目にウミを映したままクナイを持ち直した。そして標的をウミに定め、一気に口から炎を吐き出す。

「「火遁・炎弾!!」」

印を見切ってる。吐き出す直前にカカシが組んだ印を見切っていたのか、同じ動きでウミも同じように口から火を吹く。ドオン!!という爆音と共に火花がチリチリと舞い、熱風を起こした。そしてそれと同時にウミから飛んできた手裏剣を右に避けると、そこから蹴りが炸裂する。

「っと!」
「っ見えてましたか…っ」
「そんなに簡単に1発入れられてもね…俺も一応上忍だし」
「火遁・火龍弾!!」
「!!」

ちょっとちょっと、その技は上忍レベルじゃ‥!

ゴオッと鳴り響く轟音を避けなんとか木の上に着地したカカシは目で合図を送った。するとウミの死角から気配を消していたカカシの影分身が現れ、地面にウミの体を拘束し叩きつける。あの瞬間に分身を出してなかったら俺も危なかったと考えながら、やれやれと額当てを戻した。

「なっ…かげ、ぶんしん…いつの間に…っ」
「相殺された時の煙に紛れて分身出しといたのよ……あのさ、本当に君下忍?」
「…下にんにもあたいしない、ということですか…」
「その逆だよ。強すぎるくらい」
「…それなら、よかったです」
「…」

カカシは褒め言葉を言っているのに、ウミにはそれが嬉しくないのか悲しくないのか全く感情の読み取れない表情を浮かべていた。先程初めて会った時から顔つきは全く変わっていない。喜怒哀楽、それが全て欠けている…カカシは何故か無性に悲しくなって影分身の術を解きながら眉間に皺を寄せた。

「…もういいんですか」
「…君、いくつ?」
「もうすぐで8さいです」
「随分大人びてるよね…」
「いみがよくわかりません」
「…とにかく一度火影様の所に戻ろーか。ウミの実力はよく分かったから」
「わかりました」

恐ろしい程に磨き上げられた強さと何も見えてこない表情。外傷がないわけじゃなかったのに痛みすら感じていないような…彼女の身に一体何があったのか、彼女が何故木の葉にやってきたのか。口布を戻しながら考えを巡らせていた。








「早かったな、カカシ」
「はい……3代目、報告は後にしてよろしいですか?先にウミを家に連れ帰ってやりたいのですが…」
「そうか。じゃったらウミが住む家の地図を渡しておこうかの」

火影室に顔を出したカカシとウミは、ソファに座り込むミナトとヒルゼンを視界に入れる。少しボロボロになった2人を見てヒルゼンは目を見開き、ミナトは苦笑いを浮かべていた。ヒルゼンは机の引き出しから1枚の紙を取り出すと、丁寧に書かれた地図の上に赤い四角を指した。それはカカシのアパートからも火影邸からもおよそ10分程の場所にある、民家から少し離れた所だ。

「明日になったら家具や家電も届く。布団だけはきちんと用意しておるがそれまでは少々我慢してくれるか?」
「なにからなにまで、すみません…」
「なに、謝る事はない。先日も言ったように儂を親じゃと思って頼りなさいよ。これからウミは木の葉の住人になるんじゃからのう…おっと、紹介が遅れたな。儂は木の葉の里の3代目火影、猿飛ヒルゼン。おじいちゃんと呼んでくれても構わんよ」
「………ヒルゼンさま、」
「…無理をしなくて良いが」
「ヒルゼンさまがいちばんいいと思います、」
「そ、そうか…」
「…僕は4代目火影に就任したばかりの波風ミナトだよ。よろしくね、ウミちゃん」
「ミナトさま、ですか」
「うーんとね、僕的にはそれ凄くイヤだな…せめて"先輩"とか"さん"とか…」
「………ミナトせんぱい」
「うん、それが1番しっくりするかな」

苦笑いから一変してふわりと笑ったミナトの顔にも反応することはなくウミは一礼を返すと地図を受け取り火影室を後にした。慌ててカカシもそれに続き、部屋には火影2人が残された。

「あの子が一番大変かもしれませんね…」
「ヒグレの娘じゃからな…」

その2人の深い溜息だけが部屋を包みこむ。カカシとウミはそのやり取りも知らぬままに、地図にある赤い四角目指して街を歩き始めていた。

2016.04.28

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