喪失感に光

俺ってそんなに威厳なくなったの。

少なくなった財布の中身を見ながらサクラと共に火影室に向かう。ナルトやサクラがまだ下忍だった頃は、文句は言いながらもそれなりに言うことは聞いてくれていたのに、今となっては毎回ご飯を奢ってくれるだけの良き師匠みたいだ。いや、良きっていうのは俺の都合か…目の前で歩くサクラを見ながらがっくりと肩を落とすしかない。先生寂しい。

「それにしても、今日の砂の国は随分と騒がしかったですね。カンクロウさんもテマリさんもいなかったみたいだし」
「ああ、里の近くで何かあったらしい。ま、でも、我愛羅君もこちらでなんとかなる、大丈夫だって言ってたからね」
「…変なこと起こらないといいけど…」
「大丈夫でしょーよ。変なこと起こっても、これからは5大国で助け合っていくって同盟も結んだんだから。変な心配するんじゃなーいの」
「…そうですよね」

忍連合を結束した第4次忍界大戦が集結して1月経った頃、5大国は改めて同盟を結んだ。それまでは一触即発状態にあった里同士も、この同盟により少しずつ和解しており絆を深めている。五大国の同盟なんてそんな到底不可能な事をやり遂げるキッカケを作ったのは、俺の班の教え子であるうずまきナルトだ。彼は九尾の人柱力であり、今でこそ英雄として絶大な信頼を得ているが、幼い頃はその九尾が原因で里中から煙たがられていた存在だった。

「火影を超す!!ンでもって、里の奴ら全員に俺の存在を認めさせてやるんだ!!」

下忍として俺の班に入り、自己紹介でナルトが語った将来の夢。それが今や英雄として名を馳せ、次世代火影への後任も決まっている。ナルトはいつどんな時でも、己の忍道は絶対に曲げない信念を持って、戦いも人の道も真っ直ぐに貫いてきた。痛みにも苦しみにも全てに立ち向かい、やっと夢を掴んだのだ。

「…ナルトが火影になるのは嬉しいけど、少し寂しくなりますね」
「なに、ナルトのこと考えてたの?サクラ」
「や、だって、カカシ先生が同盟とか言うから、それに5大国に同盟を持ち込んだのはナルトだし!」
「ふーん。ま、いーけど」

思えばサクラも変わったな、と俺は晒されている右目を少し弓なりにした。昔はサスケサスケと煩かったサクラが、今ではナルトのことをそれと同じくらい気にするようになった。それはもちろん戦争が終わってサスケが里に戻ってきてからも、だ。サスケが里抜けをしている間にサクラを支え、サクラ自身を強くさせたのは他でもないナルトだ、ムリもないだろう。少し頬を膨らませてやんややんやと小言を呟くサクラにやれやれと思いながら財布と共に両手をポケットに入れ込むと、目の前に見えた火影室への扉から何故かナルトの騒がしい声が聞こえてきた。

むしろ言い合いというよりはナルトの1人相撲のような気がする…サクラが少し躊躇しながらドアを開けると、5代目、苦笑いしているシズネ、ナルトがいて。そのナルトに絡まれているもう1人の人物…後ろ姿の暗部の気配に懐かしさを感じると同時に、チリリッという乾いた鈴の音が微かに聞こえた。その方向に目を向けると、見覚えのあるような随分汚れた小さなイヌのキーホルダーが、目の前にいる暗部の腰のポーチに付いている。

「…もし帰ってこれたらまた、お渡しします」

長期任務に出発する直前、そう言ってウミから貰った俺の大事なイヌのキーホルダーは彼女の手に握られていた。なんで一言でも絶対に帰ってくると言えないのか。俺はその言葉を聞きたかっただけなのに。‥それから数年たった今、あのキーホルダーを付けてこうやって目の前にいる人物は確かにウミの気配だ。俺が間違えるはずがない。

「………お、前」
「カカシにサクラか」

声をかけた瞬間、それは綱手様の言葉と重なり、それと同時に目の前の暗部は一瞬で姿を消した。

「‥え?」

白い煙だけ残ったそこで、ナルトが「逃げた!!アイツ逃げやがった!!一体なんなんだってばよ!!?」と喚く横で、5代目がシズネに何かを手配するように告げている。そういえば装束も随分汚れていたな‥もしかして、例の任務で無事だったのは彼女だけだったのか、

「カカシ先生、今の人知り合いですか?」

俺の反応に違和感を感じたらしいサクラが問いかけるも、間違えるはずのない気配もきちんと姿を確認しなければそれは確信ではない。‥はずだ。俺は考える素振りをして席に戻っていく5代目に話しかけた。

「5代目、今のは一体…」
「何とぼけたこと言ってるんだカカシ、さっきの発言からして分かってるだろうが。いちいち言わせるな」
「ではやはり…」
「トモリだよ。今病院に向かわせた所だ、お前も後で行ってやれ。で、任務の報告はどうした」

トモリ。久しぶりに聞いたウミの暗部名にじわじわと実感が湧く。あーだこーだと適当な報告をしているナルトにサクラの適切な対応が聞こえてくるが、正直俺は何も問題なく終えた任務の報告なんてどうでもよくて、ただただ黙って耳を傾けているだけだった。

2014.01.18

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