紅の児

争いの絶えない時代、1つだけ身を潜めていた隠れ里があった。その里では、産まれてくる確率は何故か少ないが優位に立つのは全て女性、とある獣達に好まれるのも全て女性。よって、封印の器に選ばれるのも全て女性。そのうちの器の1人が、焔(ホムラ)という一族の者。

燃えるような赤い瞳を宿しまるで"炎"から愛されているかのように一族全員が幼い頃から火遁に手練れていた。そして代々焔一族と契約する獣も、器である契約者を護っている。

謎の多い光の国"コウの里"はここ数年で、唯一木の葉の里と友好関係を築いていた。








九尾事件が起こる半月程前の話しに遡る。すでに4代目火影が就任していた後、3代目火影であったヒルゼンの寛ぐ部屋に朱色のサテン生地を身に纏った女性が訪れていた。何かを決意したような強い瞳が鋭くヒルゼンを射抜く。ヒルゼンは深く溜息を吐き頭を抱えたが目の前の本人は意志を変える気は…ない。

「‥ヒグレはそれでいいんじゃな…?」
「ええ。…ヒルゼン、約束よ。"例"の件も」
「分かっておる。…4代目には儂から伝えておこう」
「助かるわ。ミナトさん苦手だから」

じゃあね。そう言って髪につけられた綺麗な華が拵えてある飾りをシャランと鳴らして去ったヒグレと呼ばれた女性をヒルゼンは無言で見送った。彼女が帰ってくることは、恐らく二度とないだろう。光の国の隠れ里"コウの里"は全勢力を上げて修羅の国を潰す覚悟を固めている。その為にコウの里の長であるヒグレが、木の葉の里に最後の約束を伝えにきたのだ。

修羅の国の忍殺しはなんとしてでも止める。手出しはしないでほしい、こちら側の血継限界の忍が全力を出せるようにもね。もちろん全滅の可能性がないわけじゃない…ヒルゼン、貴方にお願いしたいことはーー

ヒルゼンは隣にある小さな個室に置いていかれた五人の子供達の存在を思い出して顔を顰めた。それぞれまだ幼い女の子ばかりで、そのうちの2人に限ってはまだ産まれる時期ではないのに無理矢理取り出された未熟児。もちろん特殊な結界を張り生存できるようにはなってはいるが、ヒルゼンは母親の方のことを考えるとどうしても胸が痛んだ。

「…ヒグレ…お前は子供のことを1番に考えてはやれんのか…」

恐らく身を潜めていた光の国だからこそ修羅の国に対抗できるというのはよく分かっている。情報が何も分からない国に攻められて、無傷でいられるわけはないが…。個室に続く部屋のドアを開けると、当分の間は目を覚まさない未熟児の2人、産まれたばかりの赤ん坊、幻術にかかって眠っている少女の姿がある。しかし幻術にかかっていたはずのもう1人の少女は既に目を覚ましていて、燃えるような瞳をヒルゼンに向けていた。起きている…?幻術にかかっていたはずでは…?

「…おかあさまはいってしまったんですね」
「聞いていたのか…」
「…」
「君はヒグレの娘じゃな」
「はい」
「…丁度良い。君に話しがあるのじゃが…」
「わかっています、"かくしな"のことですよね」
「…賢い子じゃ、ヒグレによく似ておる」

隠し名…ヒグレの言っていた"例"の件。それは"焔"の名を隠し別の名を付けること。朱雀の件でも炎に愛された一族という変わった通り名がついてることについても、名前が知れ渡り過ぎている為に狙われる危険性があることに危惧したヒグレが取付けた約束だった。

「…ヒグレを行かせてしまってすまなかったな…」
「おかあさまはがんこですから」

ぴくりとも笑わないその娘に違和感を覚えヒルゼンは顔を覗き込んだ。燃えるような瞳に不釣り合いなほど生気の見られない顔。よく見れば腕や顔にも生傷が多い。

「ヒグレの娘、名はなんという?」
「………ウミ」

預かり受けた子供、木の葉で必ず育てあげるぞ、ヒグレ。

「ウミ、これから木の葉で生活することになる…儂を親だと思って頼ってくれ。そして、両親の分までしっかり生きるんじゃよ、いいね」
「…」

生傷は恐らく、血継限界を持っている以上忍としてのスキルを高めるあまりの傷。生気のない顔はヒグレから忍としてのスキルしか教わっていなかった証拠だ。ヒルゼンはウミの肩をしっかり掴むと目線を合わせて言い聞かせるが、赤い瞳からはなんの感情も見えてこなかった。

2016.02.14

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