変化

こんな所で自分の気持ちを肯定してしまうとは思わなかった。ずくりと痛むのは、大きく穴を広げた肩の傷か、はたまた心のどこかか。会いたいなんて、もう自分の中で消え失せてしまった感情だと思っていたし、戻ることはないと思っていた。

「‥あの、ゲンマ先輩」
「あ?」
「私が里に戻っても大丈夫‥‥なんでしょうか‥」
「なんだそりゃ。お前は木の葉の忍だろ。別にもう、今更お前がどこの誰だとか言われても驚きゃしねーよ」

そうじゃなくて。‥そもそも、この任務だって敵をどうにかする計画じゃなくて、私をどうにかする計画なのだから。‥と言っても、多分この人は"何言ってんだお前"ってクエスチョンマークを頭に浮かべて言うんだろうけど。

帰ってきた私を見てあのご意見番2人はどう思うのだろうか。また殺しの算段を立てられるのだろうか。‥そう思うとどうにも里に戻る勇気は出なくて固まってしまう。ここに留まって約3日は経過しているし、ゲンマ先輩の状態だってこのまま放っておいておけるような傷ではないことは確かだ。そんなこと分かってはいる。だけど。

「あー‥なんか、分かってたけど‥‥凹むよな‥」
「何がですか」
「お前がカカシ好きなんだろうなってのは予想ついてたってこと」
「いや、あの、‥今はそんなこと話してる場合じゃないんですよ。危機感ないんですか」
「別に。もうあいつらもう襲ってこねーだろ。なんか‥変に訳ありっぽかったしな」
「‥‥」

じわじわと思い出される言葉の棘にちくちくと痛みだすのは多分、心だ。暗部の癖に一丁前に心だなんて馬鹿みたいにも程がある。いくらでも殺してきた筈なのに、ここにきて剥がれていく剥き出しの感情が見えている。邪魔な物であると教え込まれたそれは、人との繋がりでこうも簡単に崩れてしまうのだ。死んでもいいと容易く考えていた心が生きたいと願ったり、‥空っぽだった身体が愛おしいと叫んだり。








「あ‥‥の、やっぱり、私‥」
「なにやってんだよ。早く報告行くぞ。怪我も診てもらわねえと大したことない怪我とかじゃないんだからな」

前言撤回。やはり私は悩んでいた。里の門の手前で1歩が踏み出せなくてゲンマ先輩を困らせているのは分かっているが、それでもこの境界線に踏み込むことができなかった。しびれを切らしたゲンマ先輩の手が伸びてきたが、大きく振り解くことしかできなくて、周りの住民達もこちらを見て不審がっているのが分かる。‥それはそうだ。門の前で押し問答を繰り返しているのだから。

「いい加減にしろよ‥‥なんでそんな頑固なんだお前」
「‥私に報告する義務がない、と思います」
「はあ?ツーマンセルだろ?義務しかねえよ」

言えない。言える訳ない。でも、言ったらどうなるのだろうか。信じる?信じない?どこかで亀裂を生む、それは絶対だ。じゃり、と後退ってぐっと唇を噛んだ。やっぱり戻れないとそう口に出そうとした瞬間、突然目の前に現れたのは、何故か火影の笠を被った5代目だった。

「ようやく戻ってきたと思ったら‥‥2人揃って随分と酷くやられたな」
「5代目、‥何故、ここに‥」
「話しは全部聞いた。一緒に来い、連れて行きたいところがある」
「な‥どういう、」
「ゲンマは先にサクラの所に行け。ウミは私が診ておくから心配するな」

5代目が真っ直ぐ見据えた先には、1番行きたくない場所がある。どこからその情報を、と声をかける寸前で口を閉じた。只ならぬ怒りを感じ取ってしまったからだ。‥どうして、そんなに‥

2017.08.17

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