マイナス因子狩り

「お前真面目にやってんの?」
「いちいちうるっさいわねえ!!致命傷は致命傷でしょ!文句言わないでくれる!?」

じわじわと服が赤に染まっていく。敵2人のギャーギャーとうるさい声になんか気にも留めず、暗部服のベストの下に着ている黒いシャツの端を破ると、急いでゲンマ先輩の腹部に当てた。

「…っ」

さきほどツゲの傀儡の槍が、私の心臓へと狙いを定めていた。ご意見番の言葉を思い出して考え込んでいた時に集中力を欠けてしまっていたのが原因で、危険を察知するのが遅れてしまったのだ。そしてそれを回避させようと飛び出してきたのがゲンマ先輩で、私に向けられた槍は回避させようと飛び出してきたゲンマ先輩の鳩尾を貫いていた。

「何やってるんですか…!」
「ゲホッ……そりゃ、俺の台詞だ…!!」
「喋らないで、動かないでください…!」

当てた真っ黒のシャツが気味の悪い赤黒い色へと変わっていく。庇う必要性なんてどこにもないのに、なんで自分を盾にするようなマネを…シャツを通り越して自分の血が真っ赤に染まっていくのを見て、私は印を組んだ。医療忍術なんてほんとにかじった程度しかやったことないから意味は無いかもしれないけど、少しくらいの止血ならなんとかなるはず。「動かないでください」と一言告げると、増血剤を置いて立ち上がった。

「…ハア…俺やるわ」
「ザザ!?アンタいっつもそれじゃない!!」
「ちゃんと任務は仕上げねえと給料減給されちまうからな。時間ロスしても時間外労働だしよ。バックアップだけ適当によろしく」
「何コマ扱いしてんのよ!!!」

呆れたように動き出したザザという男は、さっきから私達を傍観してただけだ。つまり、手の内はまだ何も分かっていない。逆に私の手の内は、知っているかもしれない。…本当に、"ご意見番の陰謀因子だったら"の話だけど。ポーチに入っていた包帯で簡単な固定を済ませると、瞳の色を紫へと変えた。

「ああ、それが例の"瞳"か。聞いてはいたけどやっぱ気持ち悪ぃな」
「…」
「何、俺からなんか情報探ろうとしてるワケ?」
「…」
「ま、勝ったら教えてやるよ」

その言葉を合図に、男は目の前から消えた。ちらりと後ろを見たが、ゲンマ先輩を狙っている…訳ではなさそうだ。その瞬間、負傷した左肩に激痛が走った。

「いっ…!!!」
「気付かなかっただろ?」

気配も何もなく私の真横に移動していたザザは掌で左肩を掴むと、徐に力を込めて笑った。何がおかしくて笑っているのかと嫌悪感丸出しにして睨みつけると、可哀想な奴、とでも言いたげに眉を小さく寄せた。

「お前見てると切なくなってくるわ」
「…なに、っ」
「生きてても可哀想だし、死んだ方がいいぜアンタ」
「だったら、早く殺してみせたらいいじゃないですか。言っておきますけど、私は只で死んだりはしませんよ」
「道連れにでもしてくれんの?」
「…」
「強がりならあんまり……ぐああッ!!!!」
「私の瞳、そんなに見ながら喋るからですよ」

紫焔眼を発動した状態で瞳をじっと見られると、相手の瞳の奥から焦がしてしまう。熱さと痛みにのたうち回るザザを見ながら右手を左手に添えると、小さく息をついてクナイに手をかけた。

「貴方…体術使いでしょう」

真上からザザが現れると同時に右手で持ったクナイを構えると、鎖帷子とクナイの接触した鈍い音が響く。のたうち回っていたザザ、の影分身は何時の間にか消えていた。

「影分身ってバレてたか。なんで体術使いだって思った?」
「馬鹿にしないでください。これでも木の葉の暗部です。動きが洗練されているのはそれだけを極めてきたからでしょう」
「忍術使えないみたいに言うなよ。木の葉の血の出ではないクセしてよく言う」
「…やはり貴方と相打ちするわけにはいきませんね…少し、聞きたい事があります」

2015.10.29

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