意地でも変わらない

タフというか…そんなに飛ばしてたらヘバるって言ってんのに。

俺は、闇となった森を見渡して大きく溜息を吐いた。もう既に日付は越えているっていうのに、全く走る足を止めようとしないウミにどうも不吉な予感しかしていない。こいつはいつも何も言わないから何も分からねえ。まあある意味そういう所に惹かれたってのもあるけどよ…

「ウミ、もう休もうぜ」
「もう疲れたんですか。それと今はトモリです」
「ああ悪い悪い…そうだよ。だから止まれって」
「その顔で疲れたなんて言わないでください」
「鬼かお前。いいから」

ふとウミが足を止めたのを見てまた走り出されないように腕を掴むと、掴んだ腕が冷えきっていた。当たり前だろう、まだ冬の季節だぞ…動きを止められてしまったことに不服な顔を浮かべたウミは、小さく舌打ちしている。お前な。

「…分かりました。ではそこで少し野宿しましょう」

腕を離してくださいと言わんばかりに睨みつけられた俺は、呆れたように苦笑いを返すと、静かに腕を離して背を向けたウミの背中をじっと見つめた。昔も今も、なんか抱えてるような雰囲気だけ醸し出してる癖に、なんにもないですよ別に、みたいな素振りしてやがる。俺は結構、お前と仲良い立場の人間くらいには思ってんだけど…ウミの話、お前の口からほとんど何も聞いた事ねえよ。誰か、お前のこと分かってやれる奴、いんの?…それとも、カカシには、ちゃんと、話せてるってーのかよ…?

「…休もうって言った割には人の背中見て突っ立ってますけど」
「…」
「ゲンマ先輩、人の話聞いてますか」
「…あー、聞いてるよ」

がしがしと頭を掻いて、ウミに顔を見られないように俺も背を向けると、ポーチから兵糧丸を取り出して噛み砕く。袋の中から同じ物を5、6個取り出すと、背中越しにいるウミへと投げた。

「何、」
「食べろ。お前の持ってるクソマズい兵糧丸よりはうまいと思うぞ」
「良薬は口に苦いって言うじゃないですか。クソマズいなんて言わないでください」
「事実だろ…」
「私の兵糧丸を代わりにあげましょうか」
「いらねえ」

その言葉に「でしょうね」と一言零したウミは、その場に腰を落としたらしい音を立てて、カリカリ、とまるでチョコでも齧ってるみてえに食べ出した。ちらりと後ろを振り向いてみれば、ウミの背中が一瞬消えてしまいそうに霞む。

「な…んだよ…」
「は」

今にも、どっかいっちまいそうだ、なんて。

「…なんでもねえ」
「はあ…そうですか」

ふとこっちを見たウミの眼には、何か"違う物"が見えているみたいだった。








「光と、修羅、か…」
「…」

シカマルが調べた資料と自分の意見を掛け合わせて、出来上がった新たな資料。それを巻物に封印すると、厳重に術を施してカカシはシカマルに手渡した。

「シカマル。これは、綱手様に」
「カカシさんはどうするんスか?」
「俺は…今、自分の影分身がいる場所に行く」
「任務っスか」
「いや。…綱手様には、単独任務に出ると伝えておいてくれ」
「…はァ?何言っ、」

言い終わる前にカカシはぼふんと姿を消し、それを呆然と見ていたシカマルは「意味分かんねえ」と小さく呟きながら、受け取った巻物に視線を落としてその場を後にした。

2015.07.09

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