心の拠り所、だったのよ。

「……眠れない」

2時間程前に紅先輩が用意してくれた布団に横になったが、全然寝落ちるような気配もなくて私はゆっくりと上半身を起こした。隣には紅先輩が寝ていて、奥にベビーベッド。タイマーをつけてくれていた暖房もとっくに切れていてぶるりと寒さに肩を震わせた。

「…さむ…」

とは言っても、まさか勝手に暖房をつける訳にも行かずに毛布を引っ掴む。そのまま体に巻き付けると布団の敷かれた部屋を出てリビングへ足を向けた。

カカシ先輩、今何してるかな…確かユニちゃんがカカシ先輩の家に行くって言ってたんだよね。行ったのかな…二人で何してるんだろ、そもそも先輩家に上がらせたのかな…嫌、だなあ…。暗い部屋でぼんやりと二人の姿を思い浮かべては頭を振った。2人が過ごした家に帰りたいなんて、思えなくて。狭くてもいいから、1人で住める場所を五代目に紹介してもらうしかない。そう考えてみても、一緒に過ごした間のカカシ先輩の顔や声が頭から離れなかった。

「全く…あ、ウマイ」
「…よかった…お前すごい魘されてたよ。大丈夫?」
「あれ、もう起きたの?」
「どうしてってそんなのお前がーーッ…!」
「これからは俺をあんまり誘惑しないよーにね」

ふにゃんとほんのり笑った顔。心配そうな顔。少しだけ眠そうな顔。怒った顔。意地悪そうな顔。長期任務に出る前の頃よりもずっとカカシ先輩の色んな姿を知った。昔だったらきっと分からなかったこの気持ちも今なら少しなら理解できる気がする。…でも、だからってここから先へは進めない。私が"忍"である限りは…








「貴女は一体何を考えているんですか?」

電気の付いていないユニの部屋で、彼女の首を片手で締め上げる灰色の衣の女、レノウは酷く冷たい声でそう告げた。ユニとカカシの会話を近くで聞いていたらしいレノウは、カカシが部屋から出て行ったのを見計らってユニの部屋に入り込んでいた。首の骨がギシギシと言うのを感じたユニは無理矢理レノウの掌を抉じ開けようとするが、歴然とした力の差に目の前が霞む。

「っ……さい、…」
「正体を打ち明けろなんて誰が言ったんですか?それに加えて打ち明けた相手があのはたけカカシだなんて…恋愛毎に現を抜かすのも大概にしてください。今ここで死にたいのですか?」

その言葉にゆるく首を振ったユニを視界に入れると、首を掴んでいた手を緩め床へと叩きつけた。ゲホゲホと慌ただしく空気を肺に送り込みながら咳込むユニを見てレノウは髪の毛を引っ張りあげ無理矢理ユニの目線を上げさせた。

「痛ッ…!」
「貴女を木の葉に送り込んだのは恋愛毎をさせる為じゃないんですよ。木の葉の里の動向を監視させる為です。分かっていますよね?」
「分かってますってば…!!」
「どうだか」
「はたけカカシは"焔"に関わってる限り私のことは絶対に誰にも言えませんよ!」
「理解出来兼ねますね。どこからそのような自信が湧いて出るんですか?」
「だって…カカシは、あの子が好き、だから…」
「トドメはいつからそんなに腑抜けたくノ一になってしまったんでしょうか…まあいいです。もしまたこちらの計画を狂わせるようなことをすれば貴女に次はありませんからね」
「分かってます…!」

そのまま銀色の目を細めてぼふんと消えてしまったレノウにユニはほっと息を吐くと、締め上げられた首元に手を当てて摩りあげた。

レノウさんには、分かるはずなんてない…!!幼いうちに木の葉に送り込まれた私がどれ程孤独だったか…どれ程私がカカシに支えられてたか、なんて。だからこそウミちゃんが憎い。あんなにカカシに想われているウミちゃんが憎くて仕方がなかった。どうして私じゃなくてウミちゃんだったのか、そのことを考えるだけでユニはただただ悔しくて、床に手を打ち付けた。

「俺はね、不器用で素直じゃなくても、それでも木の葉の里を思ってて、その為に努力を積み重ねて一人頑張ってきたあいつが好きなの。ずっとそうなんだよ、俺は」

「……カカシのバカ」

2014.12.18

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