揺さぶられる

「カカシ先輩は……人気があるし、いい大人ですし、…そういう所を見たって私は…」
「平気な顔してないわよ」

思いっきりズバッと一刀両断されて言葉に詰まる。平気な顔してない自覚は、正直ある…けど私はまだこの気持ちが本当にそれなのかが分かってない。紅先輩がそうだと言うから流されているだけかもしれない。そもそも私は、

「そんな感情なんて持てるはずが無い?」
「…なんで」
「はー…ほんっと分かりやすくなっちゃって…昔はあんなに頑なだったのにいつの間にかこんなに変わっちゃって。私本当に嬉しいわ、うふふ」
「嬉しいって…どうしてですか…」
「ちょっとした母親のような心境かしらね」

缶ビールを飲み干した紅先輩がくすくすと笑いながら私を見た。言ってる意味がよく分からないんですけど…すっきりとしない気分にぐい、と私も缶ビールの中身を口にする。何もすっきりしていないからかさらに不味く感じて口を歪む。

「まあ、カカシのことだからきっといつ迄でも待つつもりなんでしょうけど…また同じようなこと言うけど、ちゃんと自分と向き合わないと適当に返事なんかして後悔するのは自分だからね、ウミ」
「返事…しないとダメですか…」
「あんた一生カカシを独り身にさせておくつもり?」
「いえ、そういうわけでは…カカシ先輩なら私なんかいなくても……周りが放っておかないんじゃ、」
「…だから〜…!っもう!あんた面倒くさいわね!そういうこと言ってるんじゃないのよ私は!」
「そ、そんな大声出さなくても…ミライちゃん起きてしまいますよ」
「誰のせいよ!」
「ふぎゃあああ…」
「「あ」」

突然の泣き声に紅先輩と同じタイミングで声をあげた私はやっぱり…なんて思いながら眉を垂れさせた。ぱたぱたとミライちゃんの元へ向かう紅先輩の様子をぼんやりと見つめながらカカシ先輩のことを考えて一つ瞬きをした。

恋。

カカシ先輩のことは…もちろん尊敬できる忍だし、数少ない昔からの知り合いの1人だし、気も許している…とは思う(官能小説を人前で読む変態だということは置いといて)。でも…もしそうだとして…私はそれを伝えてもいいのだろうか。

「余計なことをしないでくれる?ウミには何も必要ないのよ。ただ只管に強くなって、強くなり続けることが大事なんだから」
「でもこれじゃあ…強くなる前に身が持たないよ…まだウミは4歳だよ、ヒグレ…」
「もしそこで倒れるならそれはウミがそこまでの器だっただけ…強くなるのに感情なんて邪魔なだけよ」


「強くなるのに…感情なんて…あったら…」

「仲間、親友、恋人、家族…大事な人がいてさらに強くなれるんだから、俺はそれを否定するお前なんかに絶対に負けないよ」


「…カカシ、先輩…」








「夕虹一族?」
「そ。私は"ユニ"じゃなくて"トドメ"って言うの。面白いでしょ?あはは」

なんにも面白くないしね。ユニのあっけらかんとした態度に鋭い視線を突きつける。まさかこいつも光の国の出身者だったなんて…ユニを見据えたままマスクで隠した唇を噛み締めた。

「どうする?カカシ」
「…」

分かってやってんだからこいつ相当タチ悪い。要求を飲めば本当にウミを助けてくれるのかなんて正直疑わしい所だった。ここまで来ると俺を好きだと言う言葉すら怪しい。それに本当に呪印を取り覗けるのかということも分からない。少し、調べてみる必要があるかもしれない。

「…時間が欲しい」
「時間なんて気にしてる場合?」
「俺だってウミが好きなんだ。信憑性もない言葉に乗っかって自分の心を簡単に偽るようなことはしたくない。…俺を好きだって言うお前なら、分かるでしょ」
「……そんなに…なんで、」
「ユニ」
「…分かったわよ。じゃあ3日だけ待ってあげる」

不服そうな顔を片手で隠した後壁についた俺の腕をやんわりと押し退けると、小さく笑う声だけを上げて背中を向けた。

「カカシは絶対に私の手を取ってくれる。…絶対」
「…」

そのまま部屋の中へ消えていったユニの言葉を聞きながら両手を強く握り、俺は瞬身の術でその場から消えた。

2014.12.07

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