ねえ、本心は何処?

「もう少し飲まない?」

紅先輩の部屋に足を踏み入れて数10分後、迎えに行ったミライちゃんを隣の部屋で寝かしつけてきたらしい紅先輩が両手にビールの缶を持って私の隣に座り込んできた。はい、なんて問答無用で押し付けられたら受け取るしかないじゃないですか…やだなあなんて思いながらも渋々受け取ると、ぷしゅっとフタを開けた紅先輩は勝手に私の缶へ「はい乾杯」と言いながらコン、と乾いた音を鳴らした。

「…というか、また飲むんですか…」
「何言ってるの。ウミ全然飲んでなかったじゃない」
「お酒は得意ではないですからね」
「ちょっとなら大丈夫でしょ?私もあと1缶だけだから付き合って」
「はあ…」

紅先輩に言われたら嫌ですとは言えなくて、しょうがなく私も缶のフタを開けた。大胆に飲む紅先輩とは裏腹に、2、3度口をつけ少しずつ喉を鳴らす。…苦い。顔を歪めていると、それを見てくすくすと笑われた。

「やっぱり好きじゃない?」
「好んで飲みたいとは思いません」
「ふふっ‥それだけじゃないわよね。飲むとアルコールの高いお酒飲ませるように他の人に強要しちゃうから」
「言わないでください。わたしもその時の記憶がなくて困ってるんですから…」
「あら、見てて面白いわよ?」
「…私は面白くないです」

こくりと苦味を飲み込みながら溜息を吐く。久しぶりのビールは紅先輩の言う通り、相変わらず好きになれなかった。

「で、」
「なんですか」
「カカシと何かあったんでしょ?話してみなさいよ」
「別に…話すほどのことでは…」
「そんな顔はしてなかったと思うけど」
「…」
「とうとう告白でもされた?」
「は、?な、」
「ビンゴ」

ハメられた気がする。びくりと背中を揺らしたのを見逃さなかった紅先輩は、さも知っていたかのようにやっぱりねえなんて呟いた。やっぱりねえ、ってなんなんだ。大体なんでカカシ先輩が、私を好きだってことを知っていたのか。固まるように冷えたビール缶を握っていると紅先輩は呆れたように眉を垂れさせていた。

「知らなかったのなんてあんたくらいでしょ…まあ、しょうがないと言えばしょうがないけど。成る程ね…急に私の所に泊まるとか言ったり、ウミの行動が少し変だったりした理由が分かったわ」
「なんで…」
「言っとくけどカカシの態度見て気付かない方がよっぽどだから」

嘘だ。思わず脳内でツッコミを決めてぽかんと口を開けた。カカシ先輩の態度見ても全然分からなかったんですけど…大体、なんで私なんかを…女として良い要素なんておよそ思い浮かばないんですけど…無意識にガリリと缶の飲み口を齧っていると「齧るんじゃなくて飲みなさいよ」と頭を叩かれた。

「それで、ウミはどうなのよ」
「どうって…私はそういうの分かりませんし、カカシ先輩は……私にとってカカシ先輩ですから…」
「鏡」
「なんですか急に…」
「鏡で今の自分の顔見てみなさいよ」

机の上に置いてあった手鏡を向けられて、鏡の中の自分と目が合った。ほんのり桃色に染まった頬と、少しだけ潤み始めているような自分の目にドン引きだ。思わず目をそらして両手でぱちんと頬っぺたを潰す。‥なんてだらしのない顔を晒していたのか。焦りながらぎゅむぎゅむと顔の形を変えていると、隣からぶふっと噴き出す音が聞こえてはっと目を見開いた。

「ぷっ…ウミってそういうキャラだっけ」
「……紅先輩」
「あはは、ごめんね。でもウミ、公共の場でもそんな顔したのよ?カカシの名前が出た時」
「え」
「こういうのは自分で自覚しなきゃいけないんだろうけど…恋をしてる女の子って皆そういう顔をするのよ」

恋。同じようなことをさっきサクラちゃんにも言われた。好きなんじゃないですか、と。そんなこと言われても…

「ドキドキしてる?」
「ドキドキ、ですか…そう言われると…してるかもしれません…
「ユニがカカシ好きだって知ってどう思った?」
「どう……って、すごい積極的で、ちょっと苦手だなあ、と…」
「どうして苦手だって感じたの?」
「なんですか、これは尋問なんですか」
「話し逸らさないの」
「……性格が合わないと感じたんだと思います」
「分かった、じゃあ内容変えるわね。カカシがユニと付き合い始めたらどうする?」
「えっ…」
「ウミの目の前で手を繋いだり2人で微笑んだり、もしかしたらキスしてる所も見ちゃうかもしれないわね」
「……っ」

軽く発言した紅先輩の言葉に息を飲む。持っていた缶ビールを机に置くと、カカシ先輩とユニちゃんが微笑んでいる映像を想像して小さく頭を振った。

2014.12.02

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