裏取引

「もういいじゃんカカシ!あんまりしつこいともっと嫌われちゃうよ?」

にこ!っと有無を言わせないような笑顔を浮かべながら、私の口元を塞いでいたカカシ先輩の腕を掴むユニちゃんに、ぴくりとカカシ先輩の動きが止まる。それを見計らってするりと腕から抜けた。

「ウミ…!ちょ、ユニ離せ、」
「…っ頑張るくらい勝手でしょ!カカシに見向きもしない女の子なんてもういいじゃない…たまにはちゃんと私を見てよ!」
「……そうですよ、それがいいです」
「ちょっと待ってよウミ!」

2人がじゃれているのをもう見たくなかった。カカシ先輩にこれでもかと自分の心をさらけ出せるユニちゃんが酷く羨ましいと感じた。私には無理だ、カカシ先輩に対してこの燻る情がなんなのか理解できない上に分かりたくないとも思ってしまってる。騒ぐユニちゃんに背中を向けた。紅先輩が私を止める声が聞こえるけど、歩き出した足は止まらなかった。

「紅…ちょっとあいつのことお願いしていい?今日は泊まらせてあげて」
「言われなくてもそうするわよ…もう、ほんとしょうがない子なんだから…」
「カカシ、家に連れてってくれるの?」
「連れていかないから。でもお前には言っておきたいことがあるからちょっと話そ」
「……だったら、」








暗い夜道にぽつぽつと灯りが浮かぶ。カカシ先輩の家には帰れない、ついでに紅先輩からも逃げてしまったことになっていて、しょうがない野宿かとぼんやり考えながらついた先は翡翠のお墓の前だった。雨の日以外でここに訪れるのは久しぶりだ。岩の上に腰かけると何も考えたくなくて目を瞑る。忍の癖に何かも分からない感情に振り回されてるなんて‥。

一時期はカカシ先輩とも肩を並べる程に優秀だと言われていた。自慢ではない、これは事実だ。カカシ先輩と実力が同等じゃないと、何を言うにも説得力がないんだと思った故の結果だった。精神訓練だって受けた。感情を殺す訓練だって受けた。それ以前に私は小さい頃から感情表現すら薄かった記憶さえあるくらいなのに…なのに今では、カカシ先輩の一言一言に乱されて、ユニちゃんの言葉に過剰に反応する。そして、

「翡翠…」

木の葉の為だと言うことくらい分かっていたのに…それでも殺したくなかったと強く思った彼女のお墓にそっと手を添えた。








「入って、入ってカカシ」
「なんで俺がお前の部屋に入らないといけないの。話しなら外でできるでしょ」
「もーいーから!外は寒いからやなの!」

居酒屋の前で何かをぽつりと呟いたユニに無理矢理腕を引かれて来た先は、何故かユニのマンションだった。俺はお前にちゃんと断りを入れようと思っただけであって、こんな展開なんかちっとも嬉しくないんだよ。玄関先で足を止める俺の腕をぐいぐい引っ張っているユニに溜息を吐くと、もう片方の手で頭を撫でた。

「…お前、そんなことしなくたってもう俺の気持ちくらい分かってるんでしょうよ。俺はこれっぽっちもお前のことなんか思っちゃいないよ」
「…!」
「俺はね、不器用で素直じゃなくても、それでも木の葉の里を思ってて、その為に努力を積み重ねて一人頑張ってきたあいつが好きなの。‥ずっとそうなんだよ、俺は」
「…」
「お前にそれだけ話したかったの。…だから俺のことは、諦めてちょうだい」

ぐいぐい引っ張っていたユニの手が離れて、顔がゆっくり項垂れるのが見えた。外の気温が低いせいかユニの手が酷く冷えているように感じたが、やっと離してくれたし、早く家に入ってあったまりなさいよと声をかけようとした瞬間、

「…カカシ、なんも分かってないよ。やっぱり」
「…ユニ?」
「私がそんなことで諦めると思ってる?だったら私がカカシが断れない理由を作ってあげるようか、」

俯いた先から、凍ったユニの声がした。

「…カカシが私を好きになってくれたら、ウミちゃんの肩にある"呪印"を取り除く方法、教えてあげる」

2014.11.19

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