逃げるのも逃げないのも怖い
「じゃ!2次会行くよー!来い!!野郎共!!」
「私達野郎じゃないです!!!」
酔いの覚めていないアンコ先輩にがっしりと捕まったいのちゃんやサクラちゃんは、「こっちは私達に任せて紅先生とウミさんさっさと逃げてください!」と言わんばかりの目を向けてくれていた。なんて頼もしいくノ一だろうか。私だったら絶対身代わりになんてなりたくない…
結局3時間程度でお開きになった1次会(?)を終え、さて帰ろうと足を踏み出した。サクラちゃんに言われた言葉が頭にちらついて離れない…サクラちゃんに言われて頭を抱えた後、私は何か反論する言葉を探したけど何も言うことができなくて……今日はなんだか逃げ出してばっかりだ。
「ウミさん、カカシ先生のこと好きなんじゃないですか?」
違う…そんなんじゃ、ない。‥はずなのに、おかしな動悸だけはまだ小さく続いていた。
「…大丈夫?」
私が立ち竦んでいることに首を傾げていた紅先輩が顔を覗き込んできて視線が交わる。大丈夫…ではないと思う。だって今からカカシ先輩と同居してる家に帰るのに、どう接していいかが正直分からない。私の護衛をしてくれているから、近くで話を聞いていたかもしれない。そう思うとなんだか居た堪れなくなった。
「あの…」
「なに?」
「今日…紅先輩の家に泊めていただけませんか…」
「え?なんで?」
「……え、と…」
「…サクラに何か言われた?」
「…」
「帰らないとカカシが心配するわよ」
「…」
「もう…どうしたのよ、ウミらしくないわね」
「…分からないんです…」
「何が?」
「どうしていいか…分からないんです……」
無意識に右手で着ていた服の裾を握り締めていた。どうしていいか、カカシ先輩にどう接していいかが分からない。昔ならきっと何を言われても普通通りに接することができたと思う。けど、今はどうしてもできないと思った。
「ねえ、ウミ…ちゃんと自分と向き合いなさいよ。あんたの今の顔、まるで」
「分からない、んです…私…」
「ウミ…」
それがなんでなのかなんて分からない、なんだか感じたことのない感情で、怖くて、知りたくもなかった。
「ねえ!ウミちゃんがカカシの所に帰らないなら私が行っていい?」
唐突とはこういうことを言うのかと、私は1つ瞬きをした。後ろから突然聞こえた声に恐る恐る振り向くと、にっこり笑顔を浮かべたユニちゃんがいたのだ。アンコ先輩に付いていったんじゃなかったのか…自分の眉間に皺が寄ってしまっているのが、ユニちゃんの瞳を通して見える。この子本当に苦手だ。
「止めといたら?ユニなんてすぐ追い出されるわよ」
「カカシ優しいから大丈夫だよ!ウミさん、カカシのこと好きじゃないんでしょ?ライバル宣言したけど撤回してあげるから協力して、ね?」
「…っむぐ、」
撤回してあげるからなんて、すごい上から目線すぎるとついユニちゃんを睨みつけてしまう。そして勢いのままに暴言を吐きだそうと口を開けた瞬間、ぐっと口を塞がれた。
「ユニ、あんまり虐めないでくれる?何度も言うけどウミはお前の先輩なんだよ」
「カカシ!」
「さっさと助けに来なさいよ…」
「ほら帰ろ、ウミ」
後ろから口を塞がれているカカシ先輩の手が燃えるように熱く感じる。…でも、そうじゃなかった。私の顔が熱いんだと分かった瞬間、ユニちゃんがぱしっとカカシ先輩の手を掴んでいた。
2014.11.18
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