想い出したくない想い出

「‥せい、カカシ先生、どうしたんですか?」

そう言われてハッとした俺の目の前には、注文していた一楽のラーメンが湯気を立てている。その横では教え子であるサクラが、俺のラーメンともう1つ向こうにいるナルトのラーメンを指差しながら目を丸くしていた。

「ぼーっとしてるから‥ナルトが麺だけぜーんぶ持ってっちゃいましたよ」
「ありがたくいただくってばよ!」
「あげるなんて一言も言ってない気がするけどネ。すみません、ナルトのツケで替え玉1つ追加で」
「あいよ!」
「はあぁ?!替え玉くらい自分で払えばいーじゃんよ!センセーいいオトナだろ!!」

ぎゃんぎゃんと騒いでいるナルトを無視して、いつの間にか机の上に伏せていた俺の愛読書をパラパラとめくるのを再開する。ああ、そうそう、愛するヒロコが遠い地に行ってしまって、今か今かと帰りを待ちわびているアキラの文面で終わってたんだっけ。

「珍しいですね、先生がその本途中で読むの放棄してぼけっとしてるなんて」
「ん?そーお?」

砂隠れの里へ密書を届ける任務から先程帰ってきた俺とナルト、サクラは、ナルトの提案により一楽へお昼を食べに来ていた。もう1人の第7班の班員であるサイは暗部の方で呼び出しがかかったらしく、心底残念そうに溜息を吐いていたのはつい先程の話しだ。

「可愛い教え子にツケとかありえねー…」
「いーじゃない、たまにはナルトも労ってよ」
「労ってるってばよ!」
「あんた労るっていう意味分かってる?」
「わかんねぇけどようはあれだろ?カカシ先生を助けてあげるってこと!」
「…合ってるような合ってないような…あのね、労るっていうのはーー」
「カカシ先生、替え玉追加しときますよ!」
「あ、どーも」

程よく油の浮くとんこつスープに麺が投入され、ナルトとサクラが雑談をしている間に素早く食べ終わると、いつものように俺の素顔を見れなかったと悔しがる2人の姿を視界に入れながら読んでいた本をポーチにしまいこんだ。イカンイカン、ヒロコとアキラの文面を読みながらつい物思いにふけってしまっていた。

昔、家族同然だった暗部の後輩が危険な長期任務につくことになり、行ってほしくないと思う傍で見送りに行ったことがあった。

周りに弱みを晒すことを嫌い、集団で群れたり人と仲良くすることがとにかく苦手だった、俺より5つ下の後輩である翡翠ウミは、木の葉の里と友好関係にあった光の国出身ではあるが、とある理由から幼い頃に一人木の葉の里に移住し、各国の隠れ里に名を馳せるくノ一へと成長した。

家族も身内さえもいなかったウミは、3代目火影の計らいで信頼できる忍の目の届く範囲に住むことになり、俺はお目付役となった。彼女は特異な血継限界を持っていたので、当時暗部として暗躍していた傍でウミの修行をつけるように言われていたのだ。

「…カカシ先生、カカシ先生!!」
「あ、ん?どーしたのサクラ」
「またボーッとしてる…一体どうしたんですか?ナルトは一足先に綱手様の所に行っちゃいましたけど」
「あ、任務の報告ね、そうだったそうだった」
「もう…お代は先生持ちですよ。ちゃんと払ってきてくださいね」
「え?いつの間にそんなことになって…っていうかナルトのやつどんだけ食ったわけ?」

はい、とサクラに渡された伝票には人数分のラーメンと倍の替え玉の数が表記してあった。

2014.01.09

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