病だなんて笑っちゃう

「…なんの為の宣戦布告ですかそれは」
「だってウミちゃん絶対カカシ狙ってるもん!!一緒に住んでるもん!!狙ってなかったら一緒に住まないもん!!」
「はあ‥」

中身を飲み干したコップの中で氷がカランと音を立てる。狙って…って何またよく分からないことを…溜息を吐きそうだったがめんどくさいことになりそうな気がして飲み込んだものの、どうやら顔にモロ出てたらしくユニちゃんはさらにむっとほっぺを膨らませていた。

「じゃあ、なーんでウミちゃんはカカシと一緒に住んでるの?なんで?なんで??」
「5代目の話しの流れですけど」
「え!?なんで!?そんなおいしい状況だったの?!」
「今家がないんです。だから新しい住居が見つかるまで…」
「"まで"って、そんなのカカシが許すワケないじゃ〜ん、あんたバカ?」
「ちょっとアンコ…」

私が喋っている間に割って入ってきたアンコ先輩が、団子をもっちもっちと頬張りながらバカにしたように乾いた笑いを上げている。串が刺さったまんま口の中に押し込んでやろうか。全部喋らせてください。酎ハイを飲んでいた紅先輩が止めようとしているが、それを押し切ってずずいとアンコ先輩が私の目の前まで顔を寄せてきた。

「酔ってますね。水ぶっかけましょうか」
「カカシはあんた"だから"居候させてんのよ〜、翡翠ウミっていう女の子が好きだから!!」
「ちょっ…!?」
「嘘だあ!!」
「ああ…バカアンコ…」
「「ええ!それほんとですかアンコさん!!」」

この人が馬鹿じゃないのか。酔った勢いとは恐ろしいもので、アンコ先輩はそうあっさりと口にした。っていうかそれアンコ先輩が堂々口にしていいことではないはず…それよりこんな大勢の前で、ユニちゃんの前でバラされたことによってさらにめんどくさい状況になってきた…隣で手をぷるぷるさせているユニちゃんと、いのちゃんやサクラちゃん達のすっごいキラキラした目が痛い。痛すぎる。

「カカシ先生の好きな人!?しかも片想い!?」
「やっばいわよサクラ!!超スクープよ!!」
「え、そ、そうなんですか…?!」
「いや、あのね…」
「ヤマトさんといること多かったからそっちかなーと思ってたんだけど、カカシ先生ノーマルだったのねー!」
「何言ってんのよいの。ヤマト隊長にはセナさんがべったりじゃない」
「あ、そっか」
「で?あんたら一緒に住んでるんだからそういうのもあったりなかったりしたりして?」
「あるわけないでしょう、ウミに限ってそんな…」
「あるわけ…」

「…無理矢理、ごめん」
「な、…に……なんで、こんなことっ…」
「俺は…ウミが好きなんだ」

ガシャン!!

氷を噛み砕こうとコップを持ち上げた瞬間またあの記憶が蘇ってきて、手からコップが抜けていく。机の上にあるお皿にぶつかってころころと床に落ちていくのを見ながら、動悸が変になっていくのを感じて胸を抑えた。

「…え。何、どうしたのさ」
「ちょっ…大丈夫?」
「あ、…すみませんちょっと、お手洗い行ってきます…」

大きな物音で辺りがシンとしてしまい、思わず逃げるように席を立つ。目を丸くしながら私についてこようとする紅先輩に1人でいいですから、と告げてそのままそこから離れると、お手洗いではなく外へ向かった。

「……ほんとになんかあったんじゃないのォ?」
「悪ふざけも大概にしておかないと、後でしっぺ返しくらうわよ」
「大丈夫だって!も〜紅は心配しすぎよ〜!」
「アンコ飲みすぎ」
「私ちょっと気になるんで様子見てきます」
「お願いね」
「……ふーん…」








「……あ、ここにいたんですか?」

お店の裏の石段で腰を降ろして空をぼんやりと眺めていたら、後ろから声が聞こえてきて背筋を伸ばす。ちらりと振り向くとそこには春野サクラちゃんがいた。どうやら1人…のようだ。まさか追い返す訳にもいかず、少しだけ落ち着きを取り戻していた私はどうぞと隣を少し開けて座り直した。

「どうしたんですか」
「突然胸抑えて出て行くからちょっと心配で…どこか悪いんですか?」
「…サクラちゃんもしかして医療忍者…とか…」
「はい。ししょ…あ、綱手様から教わったんです。もちろん今でも教わりっぱなしですけどね。それで、どうしたんですか?」

医療忍者、なんだ。さっき会話していた時とは違う顔付きを見せるサクラちゃんの目からは、どこかプライドと自信が見える。余程の戦場で活躍してきたんだろう。私はそんなサクラちゃんから目線をそらすと、突然動悸がおかしくなることを伝えて溜息を吐いた。

「突然動悸がおかしくなるんですか?」
「あ…やっぱりちゃんと病院に行くべき、ですよね」
「健康診断ちゃんと受けてないんですよね?」
「はあ、まだ行ってないです…」
「何か変な病気だと大変ですから行った方がいいですよ。それで、突然動悸が起こるのってどんな時なんですか?」
「どんな……そういえば、カカシ先輩のことを考えると急に…」
「えっ……………え、あー……」

ぎょっと目を剥いて驚き、一瞬にして肩を落とし頭を抱えたサクラちゃんを見て眉を寄せた。そんなにマズイのか…私もそろそろだなんてせめて30歳くらいまでは生きたかった。今度ちゃんと健康診断行くよ、そう言いながら笑えているのかイマイチ分からない顔を作ると、それ病院行っても治せないですと言われた。やっぱりか。

「…私が言うべきことじゃないのは分かってるんですけど」
「いいですよ、言って下さい」
「ウミさん、カカシ先生のこと好きなんじゃないですか?」
「は、‥‥‥え、なに、」
「ですから、カカシ先生のこと」
「…………好、きって、私が、」
「はい」
「カカシ、先輩のことを、……好き…?」

こんなに語尾が上がったのは初めてだ。また動悸がするんですけどサクラちゃん。呆れるように少し笑うサクラちゃんを見て、今度は私が頭を抱えた。

2014.10.29

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