宣戦布告って、何故

「アンコ遅いわよ、一体どこまで…あら」

問答無用で引きずられていった先にあった酒酒屋の扉を潜り抜け、花が咲いたような煩い部屋へと通される。なんともまあ色とりどりな髪色が目につくなあ……丁度目の前にいた紅先輩へ軽く会釈すると、招かれるままに隣に座り込んだ。1番端できゃっきゃと騒いでいた1人を視界に入れると、やっぱり全力でアンコ先輩から逃げるべきだったと後悔して目を伏せた。

「アンコに捕まったのね。残念」
「ホント帰っていいですか」
「来て早々何言ってんのよ!すいませーん!生一つ追加ァー!」
「飲むなんて一言も…」
「アンコさんと紅先生の知り合いですかー?」

人の言葉を遠慮なく遮った金髪の女の子は私の顔をまじまじと見ながらオレンジ色の液体を啜っている。誰だこの子は。…って、さっきアンコさんが可愛い後輩がどうたらこうたらって言ってたっけ…完全にお酒飲めない年代の後輩じゃないか。なんで酒屋の席に呼んだんだろう…

「そういえば貴女達は知らなかったかしら?私達の後輩で、いの達の先輩よ」
「え、そうなんですか?‥見たことない…」
「あったり前でしょ!この間まで長期任務についてたんだから!」
「へー。あ!私、山中いのって言います!」
「先に自己紹介してんじゃないわよ!このいのブタ!」
「何キレてんのよ。大体こういうのは早い者勝ちでしょ〜?デコデコちゃ〜ん」

まだ金髪の山中いのちゃんしか名前を聞いてないのに、ピンクの髪の女の子と何故か喧嘩を始めてしまった。なんてカオスな席だ。逆隣には私の肩に腕を巻きつけているアンコ先輩がいるから逃げるどころか席を外すことさえできない。

「あ…、あの、日向ヒナタです!」

そして、右斜め前に座る控えめそうな女の子が真っ直ぐに私を見ながら笑顔で自己紹介してくれた。日向といえば日向一族の一人か…ぼんやりとそう考えながら小さく「どうも」と返すと、アンコさんからあんたも自己紹介くらいしなさいよ!と怒られた。誰のせいでこうなってるんですか誰のせいで。

「…翡翠ウミです。一応、上忍の」
「一応‥?あ、えっと、ウミさん、って呼んでいいですか…?」
「なんでもご自由にどうぞ。…私も、ヒナタちゃんでいいんでしょうか」
「はい…!」
「日向ネジ君とは兄妹ですか」
「ネジ兄さんと知り合いですか?」
「まあ、ちょっと」
「私とネジ兄さんは、従兄弟になります」
「…成る程」

宗家と分家ってやつか…なんとなく詳しく聞くようなことは野暮かと納得すると、私は運ばれてきた生ビールを受け取り机の上に置いた。あんまりお酒は好きじゃないし得意じゃない。代わりに近くに置いてあったお水を手に取ると、そのまま口の中へ流し込んだ。

「ウミ、あっちのピンクの子は春野サクラっていうの。カカシ班の紅一点よ」
「…カカシ先輩の、班」
「「え?カカシ先生とも知り合いなんですか?」」

地獄耳か。ガルルルと睨み合っていた春野サクラちゃんと山中いのちゃんは、紅先輩の言葉が聞こえていたのか同時に振り向いた。仲が良いのか悪いのかよく分からない…しかも反応する所がカカシ先輩ってなんなの。

「えー?どんな知り合いなんですかー?ウミさんって絶対カカシ先生と同期じゃないですよねー?」
「うんうん。私も見た目的にそう思う」
「聞かなくても分かるでしょ。アンコの顔見たら…」

春野サクラちゃんの言葉を聞きながらアンコ先輩の顔をちらちらと見てみれば、にこにこニヤニヤと嫌な顔をしていることに気付いて口を引きつらせた。何が言いたいかはよく分からないけど、カカシ先輩との関係性についてはきちんと説明しておく必要がある気がした。

「カカシ先輩とは戦仲間です」
「「戦仲間???」」
「ウミ、その言い方誤解生むわよ」
「だあー!面白くないってーの!もうちょっと酒の肴になるようなこと言いなさいよ!」
「アンコ先輩の酒の肴は団子だけで充分でしょう」
「ああそれもそうか…ってそういうことじゃないっつーの!こういう時はね、」
「はーいはい!私もそっちの席行っていいですかあー?」

ガミガミと何かアンコ先輩から説教でもされそうな雰囲気が漂い始めた瞬間、一番端から聞き慣れてないようで聞き慣れた声が聞こえてきて思わず飲んでいた水を吹き出しそうになった。机の上に置いたままになっているビールは泡がなくなってマズそうだな。…と考えつつ無視を決め込んだが、それはできなさそうだ。

「アンコさん隣どいてどいてー?私ウミちゃんに言いたいことがあるんでーす!」
「はァ?アンタ図々しいわよ!大体ウミとユニ知り合いだったっけ?」
「カカシを通して知り合ったんですうー!ね!ウミちゃん!」
「ウミちゃんって…ユニより先輩よ、ウミは」
「紅さんもそんな細かいこと気にしないでくださいよー!ままま、とりあえず飲みましょ飲みましょ!」
「や、私お酒は…」
「後輩の頼んだお酒が飲めないわけないですよね!すみませんファジーネーブル2つー!」

人の話し全然聞いてないし…。というか一体どういうつもり?朝とだいぶ態度が違うけど。私とアンコ先輩の隙間に入り込んでにこにこにこにこと笑うユニちゃんを見ながら眉間に皺が寄った。

「とりあえずですよ!」
「なんですか、一体…」
「私は堂々宣戦布告します!!カカシはぜーったい渡しません!!」
「は、」
「「「はあああぁぁあ!!!?」」」
「あらまー…」
「おー面白くなってきた!」

なんで私にそんな宣戦布告する意味があるのか。指をびしっと指されてさらに眉間の皺を深くさせていると、悲鳴の間から紅先輩の呆れた声とアンコ先輩の可笑しそうに笑う声が聞こえていた。

2014.10.16

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