苦労人

「だ!誰だおめえ!!」
「木の葉の忍です。麻薬を密輸しているそうですね」
「ここにまや、麻薬なんてねェよ!!どう見ても民家の家だろうが!!」
「身の潔白をしたいのであれば拷問部でどうぞ。森乃イビキ特別上忍が相手になってくれると思いますので」
「つーか麻薬特有の臭いプンプンするけどな。ここ」

5時間程前、火影室で綱手様から麻薬を密輸している民家があり、すでに証拠も手中にあるということで、麻薬の取り締まり任務を言い渡されたゲンマ先輩と私は木の葉の里の外れへやってきていた。こんな外れでぽつんと立つその家は、似つかわしくないくらいに綺麗な風貌、家の中には3名の男と充満した麻薬の臭いが立ち込めている。ゲンマ先輩はずかずかと足を進めていき、目の前にいた男1人の胸倉を掴むと咥えた千本をカチカチと鳴らしていた。

「お前達は捕縛だ、麻薬も回収する」
「そ、そんなもん、ねぇ…!」
「ウミ」
「…あっちですね」
「っくそ!!」

臭いの強く感じる奥の扉の向こう側へと視線を走らせると、それをまずいと見た男がホルスターからクナイを取り出した。クナイでどうにかなる相手だと思ってるのか、はたまた女だから軽く見てるのかは分からない(多分どっちもだろう)が、とりあえず私もクナイを構えると、キンッという金属製の嫌な音が部屋に響き渡った。

「こ、の…!!」
「無駄な足掻きはやめておいた方がいいですよ」
「おいおま…って、何さっそく捕まってんだよバカ!」
「「2秒でケリはつきました」」
「聞いてねーよアホ共め!!ッうぐ!?」

後ろで捕縛されてる2人が降参というように手を上げているのを目の前の男が見ている隙に、腹部へ1発拳を叩き入れる。そのままずるずると床へ崩れていく体を置いて奥の扉へ向かうと、その部屋にあったのは大量の黒い袋に大量の段ボール。中に詰められているのはやはり白い粉…麻薬の類だった。凄く臭い…

「ありましたよ、ゲンマ先輩」
「よし。そしたら全部巻物に封印してこいつら拷問部へ連行するぞ」
「「いやだあああああ!!!!!」」
「口答えするんじゃねェよ」

ゲンマ先輩が捕縛している2人の男が悲痛に叫んでいる。イビキ先輩のことを知ってるということか…常習犯だなあいつら。大量の袋に開いた巻物を近付けるとぼぼんと消えていく。最後の1つを片付けた所で振り向くと、気絶させていた男が印を結んでいるのが見えた。

「…残念、だったな…」
「…」
「お前ごと、証拠隠滅、してやるよ…!」

忍かこいつ。だから1人だけ強気なのかと納得すると、小さく溜息を零して巻物を胸ポケットへと入れた。

「火遁・火龍弾!!」
「…ゲンマ先輩すぐ追いつきますのでお先にどうぞ」
「ああ、外にいるぞ」

男が口から出した炎を横目にゲンマ先輩へと視線を投げた。ゲンマ先輩も私のことを分かっているからこそこうやってこの場を任せてくれる。"火遁"・火龍弾。そんなの、ゆっくり印を組んでくれれば嫌でも分かる。残念だけど私に"火遁"は一切通用しない。

「な…!?なんで炎がお前の目の前で逸れる!?」
「"火遁"じゃなければほんの少しくらい相手になったかもしれませんが…残念です」

口から勢いよく吐き出した炎は、私の目の前で逸れると掌へと吸い取られるように消えた。これは元々私達一族の能力、故に朱雀は関係ない。炎を吸い取った所で男へと視線を向けると、怯えたように顔を引きつらせていた。

「私もあんまり手荒なことはしたくないんですよ。…まだやるっていうならさっきの火遁・火龍弾そっくりそのままお返しします。さっきの顔からして、結構自信のあった術、なんですよね」
「ひッ…!!!」

つかつかと歩み寄り怯えて戦意をなくした男の腕を掴み上げた。しっかり縄で拘束し家から出ると、ずーんと青い顔をしながらゲンマ先輩の目の前で項垂れる2人がいて、その光景があまりにもシュールすぎて思わず顔を引きつらせた。








「火遁を使ったという男は岩隠れの忍だったそうだ。木の葉には名目上"観光"で来ていたみたいだが…まあ明日にでも岩隠れに戻される。処分はあっちでやってくれるらしい。2人共、御苦労だったな」

報告書を出す為に火影室へと赴いていた私とゲンマ先輩は、綱手様に労いの言葉を貰っていた。一応Aランク任務だったらしいが、それは麻薬を密輸しているから他の強い忍達を雇っているかもしれないという危険さからであり、ほぼBランクに近いものであったのは間違いないだろう。

「ウミ、なんら変わりはないな?」
「…特には」
「ならいい。お前には少し無理をさせているかもしれんが…これからも頼むぞ」
「御意。…では私達はこれで」
「ああ、しっかり休め」
「…?」








「お前、さっきの5代目との会話どういうことだ?」
「プライバシーの侵害です」
「あのな……いやまあ、確かに戦争後で人員足りてねぇってのはそうなんだが…」
「や、任務お疲れ様。ゲンマ、ウミ」
「カカシ先輩」

悩むように言葉を探していたゲンマ先輩と私の間に入ってくるように、白い煙を巻き上げて登場したカカシ先輩に目を向ける。お疲れ様っていうか任務中もずっと近くにいましたからねこの人。護衛で。チッと舌打ちしたゲンマ先輩が面倒くさそうな顔をしている。同時に思い出したように私の腕を引っ張った。

「ちょっ…」
「わざわざお迎えかよ…過保護だな」
「過保護結構。帰るよウミ」
「今日は俺が飯に誘ってんだよ、退院祝いに。な?」

な?って、そんなあやすように言われてもそれ私了承した覚えないです……そしてそれに対して「そうなの?」なんて言いながらも、否定しろ否定!と言いたげなカカシ先輩の目が何故か燃え上がっている。ここどこか分かってますか2人共。商店街のど真ん中ですよ。周りの目が痛い。

「…じゃあ3人で行けばいいじゃないですか」
「「 嫌 」」
「あ!!ウミーー!!」

我儘共の声が霞む程の大声に後ろを振り向くと、そこには団子片手に満面の笑みを浮かべるアンコ先輩がいた。なんて騒々しい日なんだ…まだ19時過ぎなのに出来上がっているのは気のせいだと思いたい。嫌な予感を感じて逃げ出そうとした瞬間に何かを察したのか凄い勢いで私へと向かって走り出し捕まえられた。

「んふふ…久しぶり、ねえあんた暇?暇でしょ?」
「すごく忙しいです。というかいつの間に退院したんですかアンコ先輩…」
「今女子会してんのよォ!かっわいいくノ一の後輩達もいるからあんた紹介したげる!!」
「結構ですお酒くさいです人の話聞いてください」
「カカシ、ゲンマ、ウミ借りてくわねえ〜!」
「うえっ」

がっしり首根っこを掴まれて、どこかへ向かうアンコ先輩にはもう抵抗する気力もない。まあいいや、あの2人の変な威圧感にも耐えられなかったし…呆然とする男2人を視界に入れながら溜息を零すと、何がそんなに楽しいのかあっはっはと笑い続けるアンコ先輩の手をべしべしとはたいた。

「…」
「……」
「「……お互い苦労するな…」」

2014.10.08

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