忍も人だよ

「…私が殺した。‥のに、亡骸も拾えなくて、勝手に自分で立てたお墓に参るなんて……馬鹿みたいですよね…」
「……あれは翡翠が望んだことだった。お前は…翡翠を助けたんだ「それでも!!」…、…」
「っ……この手に、かけたの…!!」
「…」

「早く、殺してよ!!!ウミ!!」
「……んな、の…できな、…っできない…!」
「あんたがやんなきゃ誰がやるの!!?私は…!あんたに殺されたいのよ!!親友でしょ!!?あんたがっ……ウミが私を自由にしてよ!!!」
「やだ…!!」
「あんたはもう下忍…!木の葉の忍でしょ!!?里を守るって決めたんでしょ!!?」
「っ……い、っやあああああ!!!!!」

フラッシュバックした昔の映像にびくっと背中を震わせ目を見開く。初めて出会ったのも酷い雨で、最期を見届けた日も酷い雨だった。初めて人を殺した日。それが親友だった…翡翠だった。

「…ウミ、大丈夫か?」
「雨は、嫌いです…!!」

翡翠を殺した日。彼女のことを一度だって忘れることがないように、焔という性を隠す為彼女の名前を名乗ることに決めた。

「だ、まってて……ごめ…ね…でも……ウミが"そう"、よ…でくれ…うれしか……」

彼女の喉を切り裂いて、ヒューヒューと空気の抜けていた音は今でも鮮明に思い出せる。絶対苦しかったはずなのに、痛かったはずなのに…下唇を噛んでぎりりと掌を握りしめていると、いつの間にか私の前に移動していたカカシ先輩が私に手を伸ばしていた。

「…そんなに強く噛むと切れるよ」
「…」
「そんなに全部溜め込まないでよ…お前がそうやって昔から人知れず泣いてたことは知ってた……そうやって泣いてもいいんだから…せめて俺を呼んでよ…」
「ひ、っう…」
「…何度も言うけど……"忍も人"なんだよ」

ぱさ、と持っていた傘が落ちたと同時に濡れる感触と暖かい体温が包み込み、とうとう今まで積み上げていた色んな思いが決壊した。殺したくなかった、修羅の国の仲間達も、翡翠も……どうしても自分が殺したなんて認めたくなくて一度死体を見捨ててしまい、我に返って戻ってきた時には死体が無くなっていて……もう任務だと割り切るしかなかった。里の為だと割り切るしかなかったのだ。

声を上げて泣いたのはいつぶりだろうか…必死にカカシ先輩の腕にしがみ付きながら、雨なのか涙なのか分からない物がとめどなく頬を伝っていた。








「……さすがに泣き疲れたか…」

ぐしょぐしょになった裾を片手で軽く絞りつつ、落ちた傘を手に取った俺はウミをおんぶした。先程のように感情を露わにした彼女はほとんど見たことがない。それは忍だからとかそういう理由だけではなくそういう性格だからだ。だからこそ"暴走"したりする、朱雀を抑えられなくなる。ある日突然彼女が"壊れる"んじゃないかと不安になることもないわけではない。

「……………決めた」

怖がるのはもうやめだ。…ウミ…俺はね。耳元ですうすうと聞こえる寝息を聞きながらくるりと翡翠のお墓へ振り返ると、少しだけ黙祷しその場を後にした。

2014.08.10

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