ぞわりと悪寒

「秘術・炎締(えんじめ)」

紫色の瞳で映す先の、抜忍達の体内にある臓器を高温に熱した糸のようなもので絡めて締め上げる。もちろんそれは、体にある熱を私が各忍の体内で凝縮させ紐上にした物だ。まあ簡単に言うと結構な高等忍術であり、私達一族の血継限界の能力。

「ぐあああッ!!?」
「いてぇ…っ、体が燃えるみたいだっ…!!!」

ドサドサと呻き声を上げて突っ伏していく抜忍達の姿を横目に、隣で必死に戦っている日暮硯コトメを視界に入れた。忍術は…並以下。体術はそれ以下。相手が頭の悪い下忍レベルだったのが幸いしていたが、それよりもっと強かったら恐らく瞬殺だっただろう。全部片付け終わった所で瞳の色を戻すと、私は息を整えている少女へ呆れたように口を開いた。

「…やれば出来るじゃないですか。殺られるかと思いましたけど」

カカシ先輩やナルトが抜忍達を締め上げる中、そう呟いた私に彼女は唇を噛み締めた。弱いのは自分がよくわかってる、ということか。悔しくて仕方がないと…それを分かっているのにわざわざ続きを言う必要もないか。ピリピリとした右肩に手を当てつつその場から去ろうとするも、黒髪のくノ一が鋭い視線を向けたまま口を開いた。

「つけられているとは思っていましたが…まさか暗部だったとは思いませんでした。これはただの護衛任務でしょう?」
「私に答える義務はありません。理由を知りたければ里に戻って5代目から直接伺ってください。では私はこれで」

長居は無用だと私は一度距離を取ることにして、瞬身の術で今度こそその場を後にする。が、一瞬私の様子を見たカカシ先輩の顔が少し歪んでいることに気付いた。‥やっぱり、カカシ先輩に隠すのは難しいか。

カカシ先輩が、口寄せの忍犬達を呼び出して抜忍を預けている所を見ながら、影分身の術で自分のコピーを出し、カカシ先輩の小隊を追いかけるように指示した私は、先程までいた木の上で一息付いた。…それにしてもアイツ一体どこから情報を…木の葉の上層部でも一部しか知らないことを…

「ぐ、っ…!!!」

何者だったのか考えていると、突然激しい痛みに襲われて右肩を強い力でガッと掴む。そして、目を向けた先。

なに、これ、

異常に熱を持ったそこには、百合の花のような形をした黒い刻印が刻まれていた。…毒、の痛みじゃない。さっきの千本の毒はこれを誤魔化す為のフェイクだった。千本を刺した時、一緒にこの刻印を…

「知りたいか?その内分かる…イヤでも分からせてやるよ。お前《達》封印の器はいずれこちらの手に落ちる。覚悟しておけ」

こちらって、一体なんの話なのか‥。あまりの痛みで意識が朦朧とする中、せめて王子を砂の国に到着させるまではと、なんとか精神を集中させる為に奥歯を噛み締め、太腿にクナイを突き刺した。








「ーー聞いていますか?カカシさん」
「んー?悪い、なんだった?」
「…もう結構です。先程からぼーっとして、任務は帰るまでですよ。何が起こるか分からないのですから」
「ん、そうだよね。ごめんごめん」

無事に風の国へと王子を届けた俺達は、我愛羅君との対話もそこそこに、ハヤちゃんをなんとか振り向かせようと頑張る王子様を置いて木の葉へと向かっていた。全く…里一番の美人という噂はまあ認めてやってもいいけど、この子俺苦手なんだよね(っていうかウミの方が可愛いし)…と、溜息を零す。さすがに夜は寒すぎると上着のマントを体に羽織ると、ふと違和感に気付いて顔を上げた。

さっきまであったウミの気配が、ない。

先に帰ったのかもしれないとも思ったが、任務は帰るまでという真面目な考えがウミにあるのもよく知っている。そういえば、午前中に奇襲にあった時、少し肩に手を当てて様子がおかしかったのを思い出した俺は、3人を置いて駆け出した。

「は!?え、ちょっとカカシ先生!!急にどーしたんだってばよ!!」
「悪い、先に戻っててくれ!」

クソ、奇襲の後も気配はずっとあったから油断してた…!よくよく考えれば任務も終わってないのに気配が風の国について突然消えたりするわけない、あれは、恐らく影分身…!ザザッと駆けるスピードを速めて匂いを辿って行くと、目の前から一仕事を終えたらしいパックンがちょうどよくこちらに向かっているのが見えて、俺は声を荒げた。

「パックン!!」
「おお、カカシか。なんじゃ、随分慌てておるな…もう儂以外の皆は戻しておいたが…」
「悪い、もう一仕事頼むよ。ウミの匂いを追ってくれ、もしかしたら何かに巻き込まれたかもしれない…っ」
「ウミ?なんじゃ、あやつ里に帰ってきておったのか?」
「いいから早く!」
「人使いが荒いというか犬使いが荒いというか…とにかく、ウミの匂いじゃな。………こっちじゃ、ついてこいカカシ」

パックンに先導されて来た道を戻って行く。嫌な予感を拭うようにひたすら走り続け暗闇と化した森の中へと足を踏み入れた。

2014.03.11

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