闇の中への刺客

ーー呑気すぎることない?

視界に映る4人+護衛対象の王子様を囲む敵の忍の気配を感じて、私は小さく溜息を吐いた。恐らくカカシ先輩もナルト君も黒髪のくノ一も気付いている。が、あの空色の髪をしたくノ一は全く気付いていない。完全に安心しきっている。あれが5代目の言っていた"日暮硯コトメ"だろう。

木の上で状況を伺いながらどうしたものかと頭を抱えた。一応5代目からは「基本的に参戦はなし!」を言い渡されているものの、あの感じだと確実に足手まといになる。まぁ、周りの敵は10人程度と割と多めだが、それほど強そうな忍もいなさそうだしなんとかなりそうだ。‥と思うけど…。森の奥まで来た所で、ちらりと後ろを怪しむような黒髪のくノ一の姿が見えた。

あの子私が追ってきてることに気付いてる…別にいいけど、やりにくいな‥。大体2人も上忍がいるなんて彼女も相当緊張するだろう。やっぱり他の任務にでも組ませればよかったんじゃないかと、面のずれを直した瞬間。

「止まれ」

突然後ろから静かに声が聞こえると同時に、風を切るような千本の音がした。前を向いたまま後ろ手にひゅっと千本を投げて相殺させると、ククッという不気味な笑い声が上がる。

「…何者ですか。遊んでいる暇はないのですが…死にたくなければ消えてください」
「いや、さすがだと思ってね…やはり1番出来がいいのはいつも"焔"なのは変わらないな。さすがヒグレの娘、という所か」
「!」
「今日は顔を拝みにきただけだ。まァ、面をしてるから面を拝みにきただけというか。ハハ…」
「何故…それを…」
「知りたいか?その内分かる…イヤでも分からせてやるよ。お前"達"封印の器はいずれこちらの手に落ちる。覚悟しておけ」
「待、ぐっ…!」
「…そんなに落ち着きがないとバレるぜ、任務中なんだろ?ま、せいぜい頑張れよ」

いつの間にか真後ろに居たその忍は、私の右肩にグサリと千本を突き刺して消えた。鋭い痛みに顔を歪めつつ、肩から千本を荒々しく抜きとった私は、先端に塗られた青紫の液体を視界に入れて眉間に皺を寄せた。しまった…毒を盛られて…!

「へぇ、なんにもできねぇチビがいるな。お前、本当に忍か?」
「コトメ!!」
「そこの王子!!コイツを切り刻まれたくなかったらこっちへ来い!!」

謎の忍に気を取られていた隙に、休憩を取っていたらしい一行から大声が上がる。目を見開いた先には、例の日暮硯コトメが大柄の忍に捕まえられ、クナイの刃を首元に当てられていた。それによりもがこうにももがけないらしく、真っ青な顔でまさに絶対絶命だと彼女の目がカカシ先輩に訴えかけている。どうしようかとズキズキと痛み出す肩を押さえていると、その瞬間鋭い視線を感じてばっと目を向ける。その先で、カカシ先輩がこちらを見て何かを訴えていた。

「ナルト!そっちは大丈夫だから王子の所に戻れ!」
「何言ってんだってばよカカシ先生!!このままじゃコトメが」
「こっちに来ねぇならこのまま殺す!」

助けろってことね。やっぱ気付いてたか、しょうがない。ざっと木の上から飛び降りると日暮硯コトメを抑えている大柄の男の背後から一気に体を貫いた。

「もう1人いるの、気付いた方がいいですよ」

言うと同時に低い呻き声が漏れ、大量の血が彼女の背中を汚す。動かなくなった所で怯えながらその濡れた感触に手を伸ばし、そして触れると手の平にべっとりと血が付着したのを視界に入れた彼女は、驚きと恐怖の入り混じった顔で短く悲鳴を上げた。

「ひ…!!?」
「ゲ、あん時の…!!」
「…余所見してたら今度こそ殺られますよ」

誰かが助けたのに気付いたらしいナルト君は、私の顔を確認するや否や顔を顰めている。そうか、彼は一度だけ私の暗部の面を見たことがあったんだっけ…動いて毒が回ってきたのか少しずつ朦朧とする頭をなんとか叩き起こして敵をなぎ倒していきながらも、目線を寄越すカカシ先輩に視線を向けた。

「追ってきてたのね、トモリ」
「戦闘に出る予定はなかったんですけどね。誰かさんが無言の命令をするもので」

何しらばっくれてるのこの人…気付いてた癖に。黒髪のくノ一も戦いながらこちらを睨んでいたが、いかんせん敵の人数も多くとにかく毒が全身に回る前に片付けてしまおうと、一度目を閉じて"紫焔眼"を向けた。

2014.03.08

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