同等の器、?

「…じゃ、俺は先に行くから」
「はい……気を付けて」
「……さっきは怒鳴ったりして悪かった。今日の晩御飯、楽しみにしてる」

頭にぽんっと手を乗っけてわしゃわしゃ撫でると、そのまま頬に滑らせ名残惜しいかのように離れていった先輩の熱。パタンと閉められたドアを見て、その熱に自分の手を添えた。

ゲンマ先輩のアパートからカカシ先輩と帰ってきた私は、あの後軽く朝食を作りなんだか気まずそうな先輩と一緒に食べた。よく分からないけど、私はカカシ先輩には嫌われたくなくて…だからあんなに焦っていたのかもしれない。だって初めて任務で怪我した時以来、怒られたことがなかったから…

「大体ね、お前昔から危機感なさすぎるのよ!1人暮らしの男の部屋にのこのこ上がったりしてどうにかなりたいわけ?!」

男の部屋にのこのこ上がったりしたらどうにかなるっていう意味がわからない。今現在もこうやって先輩の家に居候してるっていうのにゲンマ先輩の家にいるのと何が違うんだろう。ああ、もう全然分かんない。

考え込んでいた時、久しぶりに聞いた鳥の鳴き声にはっとしてベランダへ向かった。屋根上で飛ぶ一羽の鳥に目を向けて、一気に気を引き締める。暗部の呼び出しだと、急いで暗部装束に着替え、机の上にある面を手に取る。今朝の出来事を忘れるように一度深呼吸して面を着けた私は、家の鍵をかけて瞬身の術でその場を離れた。








「早かったな、トモリ」
「時間を要する任務でしたら困りますので」
「優秀と言われていただけあるな。カカシにも見習って欲しいよ」

火影室で資料を散らかしながら苦笑いをする5代目を視界に入れて、私は溜息を吐いた。この人仕事する気あるのかな…さっきからせかせかと調べ物をしているのは、いつも側近にいる付き人の女の人だけだ。

「先程カカシ率いるフォーマンセルの小隊に風の国へ異国の王子を護衛する任務を任せた。その王子の国はかなり裕福でな…まァ、金のない抜忍達には格好の餌食になる」
「カカシ先輩がいるなら問題ありませんね」
「いや、別問題だ。というより別問題にさせたのは私だがな」
「どういう意味でしょうか」
「カカシの小隊にはうずまきナルト、白魚ハヤ、日暮硯コトメがいる。ハヤは上忍でナルトはまだ中忍だがあいつは何も問題ない。問題は…日暮硯コトメだ」
「カカシ先輩が小隊に組み込んだのであれば何も問題ないのでは」
「組み込んだのは私だ」
「…はぁ」

5代目が組み込んだと言うのであってもそれはそれで問題ないんじゃないか。何を言ってるんだこの人。

「コトメは戦争前に中忍になったまだまだ経験の浅い16歳のくノ一でな。里外任務は今回が初めてになる。小隊のメンバーが手練れ揃いなのもあり組み込ませたんだが、過去の実績で少々心配なことがあって…お前、日暮硯一族のことは知っているか?」
「…いえ」
「そうか…シズネ、悪いが少し席を外してくれるか。2人で話がしたい」
「あ、はい。分かりました」

資料をいくつかと子豚を持ち、廊下へ向かった側近の女性が部屋からいなくなるのを見送った5代目は、お茶を啜り私を見た。

「……日暮硯というのは光の国"コウの里"に住んでいた一族。コトメはお前と同じく"封印の器"なんだ」
「…」
「まぁそれはいい。で、秘術を扱う一族でもあるんだが…あいつはその力をちゃんと習得できていない」
「どんな秘術を扱う一族ですか」
「"空間術"だ。自分のチャクラで見えない箱型の密室を作り、日暮硯一族の特殊な印を組んでその中にいる者を殺す。空間術は中からは絶対に壊せない…でな、上手くできずに仲間を殺しかけたことがあったらしい」
「…日暮硯コトメを見張れということですね。もし空間術を使った際に班員もろとも箱に入ってしまったらなす術がないと」
「話が早いな…そうだ。空間術というのは結界術と違い外からの攻撃に弱い。まぁ…よっぽど使わないと思うが念には念を、だ。ただし戦闘での手助けは極力するな。アイツには実戦経験も必要だ。まぁ…お前の判断に任せるが」
「あの子が"封印の器"の1人でしたか…」

昔、木の葉に連れて来られた時のことを思い出した。私の他にも何人かいたのを覚えている。いや、"何人か"という言い方も、今考えればおかしいのかもしれない。

「王子を含めた5人は先程出発したはずだ。では頼んだぞ、トモリ」
「…御意」

その瞬間に火影室から消えた私は気配を完全に消すと屋根を飛び越えながら里を後にした。"封印の器"であるコウの里の出身者が他にもいたのか…まぁ、どうでもいいけど‥。ひゅんひゅんと足を急がせながら森の中へと踏み出した瞬間に5人と思われる姿を確認して、木の上へ姿を隠した。

2014.03.03

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