恋敵 VS

ウミの気配を追って付いた先はゲンマのアパートで。俺がただただ目を丸くしていたのはつい先程までの話。ゲンマのアパートから出た俺は、ウミの手を掴んだまま自宅までの道のりを急いでいた。任務があるから、という理由から急いでいるわけではない。なんでゲンマなんかの所になんか。

アイツはウミと初めて会った時、皆が会う度に男の子だと勘違いをする中で1人女の子だと見抜いていて。それは多分最初から興味を持っていたからで、恐らく今はもう…俺と同じ気持ちをウミに持っている。

「先輩、離してください、」
「なんで急に出てったのか理由を話してくれるなら」
「……そ、んなの私だってわかりません…」
「大体ね、お前昔から危機感なさすぎるのよ!1人暮らしの男の部屋にのこのこ上がったりしてどうにかなりたいわけ?!」
「どうにかって、今も私は男性であるカカシ先輩と暮らしてますし」
「俺とゲンマは違うでしょ!」
「…どうしてそんなに怒るんですか」
「どうしてってそんなのお前がーーッ…!」

立ち止まって振り向いた俺は思わず自分の気持ちを言いかけたが、はっと我に返った瞬間ウミの顔が痛そうに歪められているのに気付いて、握りしめていた手を緩めた。

「…ッ、悪い…」
「私……が、なんですか…」
「……なんでもない、今のは忘れてくれ…」
「…」
「‥とにかくお前は少し男に危機感を持て。俺が言いたいのはそれだけだ」

たったこれだけのことで取り乱して…、ガキか俺は。するりと手をほどいてウミを自由にすると、笑えているかイマイチわからない笑顔を向けた。お前が思うほど俺は大人じゃないだろうし、自分で思ってる以上に独占欲も強い。忍だけど俺だって男なんだから…

自分のしたことを若干反省しつつウミから顔をそらせると、両手をポケットへと突っ込んだ。そのまま歩き出そうと一歩踏み出した瞬間に裾が引っ張られる感覚。似たようなことがあったような…と考えながら振り向くと、ウミにしては珍しい酷く慌てたような困惑したような顔が目に入った。

「…待ってください、どうして、そんな顔するんですか、私がどうしたんですか、それについては何も……答えてくれないんですか」
「…え…?」
「だって、起きたら先輩の顔が隠されてなくて吃驚して……よくわからなかったんですけどなんだか無償に熱くて、煩くて……ですが傷付けてしまったのであれば、すみません…」
「え、あ、いや、こっちこそごめん…?」

俺の顔見て吃驚って今更すぎることない?熱くて煩いって何が‥?今度は俺が困惑する番だったが、そんなにオロオロしているウミを見るのも初めてで、どうしたもんかととりあえず頭を撫でてやる。そんな姿でさえ可愛いと思ってしまう俺は(いや誰が見ても可愛いと思うが)もう末期かもしれない。俺の顔色を伺うウミを見ながら、今日のことはもういいかと今度こそ本当に笑ってやった。








「…カカシ先生キモいってばよ」
「いつもの本を読んでないのにその顔はないですね」
「君達失礼すぎるからね」

あの後アパートに戻り、なんだか少しギクシャクした雰囲気はあったものの、いつものように任務に出た俺は現在火影邸の前で若干遅刻気味の中忍1名を待っている所だ。どうでもいいけどこの2人の痛い視線はどうにかならないのか。しょーがないでしょ、今朝のウミ思い出したらこうなっちゃうんだから。今回の任務は元々の班員であるナルトと、上忍であるくノ一・白魚ハヤ、まだ到着していない中忍のくノ一・日暮硯コトメのフォーマンセルで、風の国まで王子様を送る護衛任務。…まぁ、というのは表向きで、実際はその王子様をエサに抜忍を捕獲する任務。しかし、それは俺だけが知らされている事項。ハヤちゃんならそのうちバレるかもしれないが、そんなのは想定内だ。

「お、来た来た!」

だだっと向こう側から走ってくる空色の髪の毛にナルトが一早く反応すると、その人物である日暮硯コトメは俺達3人に気付くや否や、走るスピードを落とし口を引きつらせた。

「…え」
「遅いねーお前。遅刻はダメだぞー」
「それはカカシ先生が言っていいセリフじゃねー」
「全くもって同感します…」

俺は毎回何かと理由があるんだしいいでしょーが。‥恐らくコトメちゃんは、なんで護衛に上忍2人とナルトなの!?任務過酷なの!?みたいなことを考えているんだろう。まぁ、コトメちゃん忍としての成績も良くないみたいだし(噂程度しか知らないけど)。俺はスリーマンセルのつもりで小隊編成したんだけど‥恐らく綱手様の計らいでしょーね。経験的な…

「え、なんで急にやる気なくしてんのこの子…」

それにしても見てわかるようにずうんと項垂れる彼女を見ると、なんだか少し可哀想になってくるなと俺は眉尻を下げた。

「おおーい、コトメ、大丈夫かってばよー」
「綱手さんも何を考えてこのメンバーを組んだのか…私も疑問ですが、とにかく任務に出発しましょう?コトメさん」
「ハヤさん…」

まぁでも(さらりと毒を吐くハヤちゃんはともかく)同期のナルトがいてよかったと、俺はほっと息を吐いた。ナルト達とアカデミーを一緒に卒業したとは言えど、この子が中忍になったのはナルトより後だったからあまり関わりもなかった。日暮硯一族のことは五代目から聞いてはいるが…

「今日の任務って…護衛なんですよね…?」
「ん?まぁーね。でもいいとこの王子様だから、俺等がついてるって感じ?」
「私がいる意味って一体…」
「コトメさんはまだ里外任務は出たことがないということらしいので、戦争も落ち着いた今がいい機会だということではないでしょうか?」
「え、コトメお前まだ里外任務出たことねーの?」
「こらこらナルト…まぁとにかく、もう里の門近くに王子様もいらっしゃってるみたいだから、行こうか」

驚くナルトと落ち込むコトメちゃんと冷静な分析をするハヤちゃん。なんとなく大丈夫かなぁと空を仰ぎ見つつ俺は門へと足を向けた。

2014.03.01

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