熱なんか篭ってないから

「…で、そんな薄着で何やってたんだ?」
「…」

何がどうなったらこうなるのか(まあ私がこんな格好で外に出たのが1番悪いんだけど)、ゲンマ先輩が住むアパートへと無理矢理連れて来られて、私は舌が火傷するんじゃないかと思うくらい熱いお茶を両手に持たされていた。目の前ではゲンマ先輩が呆れた目を私に向けながら炬燵に足を突っ込んでいる。聞けばゲンマ先輩はやはり任務朝帰りコースで今日は休暇らしい。

「コラ、黙んじゃねえ。人の話しに相槌を打て相槌を」
「……いひゃい…」

炬燵から身を乗り出して、右手で私の左のほっぺたをぐにっと引っ張るゲンマ先輩。だって、そんなこと言われても自分でもよく分からないのにどうやって説明したらいいのかなんて分かるわけないでしょう。数10秒の沈黙の末、ゲンマ先輩は諦めて黙り続けた私のほっぺたから手を離し、肩肘をついて大きく溜息を吐いた。

「…変わったのは外見だけかよ。なんか話さねーとわかんねーだろーが…ただ走ってましたとか…」
「ただ走ってました」
「嘘付け!…ったく、そんな格好で走る奴がいるかよ…お前大体家あっち方面じゃないよな。誰かの家にでも泊まってたわけ?」
「…私今住む家なくて。取り敢えずというか、カカシ先輩の家に居候しているんです」
「……………は?」

カシャン、とゲンマ先輩の咥えていた千本が机に落ちる。私何か変なことでも言っただろうか。ずずっとお茶を一口啜る。ふと気付くとさっきまで煩かった心臓がいつもの調子に戻っており、熱かった顔もいつの間にか冷めていた。なんで素顔のカカシ先輩を見て突然あんな風になったんだろうと湯呑みを机に置く。まぁ休暇が入った時にでも病院に行くか。任務に支障きたしてもマズイし…。次の休みはいつになるのかを考えながら目線をゲンマ先輩に向けると、何故か体と顔がピタリと固まっていた。

「おま、カカシの所いんの?っつーことはもしかしてなんかあって飛び出してきたとか?」
「いや、なんかあったというか勝手に足が玄関に向いたというか」
「ますます意味わかんねぇよ!イヤイヤイヤその前に、お前家あっただろ?」
「戦争で大破してました」
「…オイオイマジかよ…」

つーかなんでカカシ、近いの俺だろ、とかなんとかぶつぶつ言いながら千本を咥えなおしたゲンマ先輩はじいっと私の目を見ている。別にゲンマ先輩の素顔見ても何にもおかしいことは起こらないのに…どうしてあの時は…

「…お前カカシとなんかーー‥あの人結構女ーー、ーーおい、聞いてんーーー」

ゲンマ先輩って病気とか詳しいのかな。でも専門家ではないし聞いても無駄か。ゲンマ先輩の言葉も右から左に吹き抜ける(聞いてない)。何かを喋り終えようとした瞬間に突然ドアのノックが聞こえてきて、そこではっと気付いた。

「なんだよこんな時間に…まだ7時前だぞ」

面倒臭そうに立ち上がり、玄関へと向かうゲンマ先輩を見ながら、私はどことなく落ち着かなくて膝の上で両手を握る。‥なんで、わざわざこんな所まで。玄関先にある気配は間違いなくカカシ先輩のモノだ。

「ウミいる?」
「…いるけど……何、お前等そーいう関係?」
「…ウミから何も聞いてないの?」
「聞いたけど…色々釈然としねぇっつーか…」
「ゲンマ」
「…なんだよ」
「ウミ連れ帰っていいかな」
「…なんもなかったらアイツがあんな格好で外に出ねぇだろ。何やらかしたんだカカシ」
「何もしてないから。突然飛び出されて吃驚したのは俺の方だし」
「どうだろうな」
「……何が言いたいのよ」

ぴくっ。なんとなく、玄関先にいる2人の空気が悪い気がした。何かと衝突するんだよねあの2人…昔からだけど。観念して玄関先へと足を運ぶと、口布と額当てをしたいつものカカシ先輩、ゲンマ先輩がお互いを睨み合っていた。私の方は……カカシ先輩を見ても今度は何もないようだ。

「あの、ゲンマ先輩。お茶ご馳走様でした」
「帰んの?カカシん家に…」
「今の住居はカカシ先輩のアパートですから」
「そーいうわけだから、ゲンマ」
「ちょっとカカシ先輩…」

ふわりとカカシ先輩の着ていた上着をかけられ、左手を引っ張られるようにゲンマ先輩宅を後にする。ちらりと振り返るとその先に見えるゲンマ先輩が、私をじっと見ていた。

2014.02.28

prev || list || next