光瞬くのを始めて見た日

「邪魔するぞ」

そんなにあからさまに怒気を含ませて扉を開けて、この人はどういうつもりなのか。その先では、優雅に湯呑みに口をつける2人が驚いた顔をしているのが見えた。その2人の視線の先にいるのは、5代目の後ろにいた私だ。何故、お前がまだ生きているのだ、とでも言いたそうな雰囲気は、5代目に全て一掃された。邪魔するぞと言いつつも、私の言い分には邪魔させない、と言った所だろうか。

「綱手‥なんじゃ、何故トモリまで居る‥」
「それに対して物申したいのはこっちだ。木の葉の里の火影はお前等ではない。私だ。こいつを任務に出すならそれなりの書類は上げてもらいたいものだが?」
「‥特別任務じゃからな」
「特別任務なァ‥」

ちら、と私に目配せをした後、懐から何枚か紙を取り出した綱手様は、ばんと机の上にそれを押し付けた。なに、それ。と、その内容に目を向けて、そして頭を撃たれたみたいな衝撃が走った。だけど同時に、今回の任務の違和感が全てなくなった。私はやはり、2人に命を奪われる予定だったのだと。

「こいつにこっぴどくやれた1人とその1人をつい最近保護した。‥まあ保護するつもりだったが、元気な方が随分暴れてくれてな。どういうつもりかと思って尋問してみればあんたらの極秘任務だって言うじゃないか」

元々は上忍の、しかも手練れの2人組。だが随分と前に暗部として闇の世界にのめり込み、ご意見番専用の暗部として影でずっと活動していたらしい。しかもそれを極秘として、ご丁寧に顔を弄って元が誰だったのかを分からないようにして。そうして、最近起きている事件と同じようなことだと臭わせて私を任務に行かせた。‥つまり、私とゲンマ先輩が殺そうとしていた2人も、私を殺す為の算段を立てていた、と。

「‥そいつらがそんなことを本当に吐いたとでも?」
「優秀な拷問エキスパートが手伝ってくれたんだよ。わざわざ砂からな」
「マトイか‥」
「何故執拗にこいつを狙う必要がある。同じ木の葉の人間として、お前らがやっていることは恥ずかしくて敵わん!」
「‥木の葉を思うなら、何故火影一派のお前らは封印の器を処分しようと思わんのだ」

ぎくりと足が震えて、目の前が揺れた。こんなにも直接的な表現で存在を否定されるなんて思っていなくてさっさとこの場から消え去ってしまいたいと、そう思った。だけど、そんな私の心境に気付いたのか、ぐいと私の腕をぎりぎりと力任せに掴んだ綱手様が、大きく息を吸って吐く。やめて。もうこれ以上こんな所にいたら、ずっと閉じていたままの心が、そのまま砕けてしまう。いや、違う。無理矢理にでも少しずつ開かされている心の隙間から、無遠慮にこじ開けられて崩壊する。

「封印の器達は悪影響を及ぼす存在ではない。里をその能力で守ってきたマトイ、その技術で里の人々を救ってきたセナ、奈良との信頼を強固に気付き、里を守る為に1度旅立つと決めたコトメ、長い年月をかけて五大国を脅かしてきた存在と戦い続けたウミも、‥あいつも、全員が里をより良くしてきた」

凛とした声だった。

掴まれた腕が痛い。けれど、それ以上に聞いておけと言われている気がして動けなかった。悪影響を及ぼす存在では、ない。それだけはっきり言われると、本当にそうなのかなと疑問に思ってしまうと同時に、そんなことを言う人がいるのかと、思わず顔を上げてしまった。

「だが結局は」
「違う。これだけは断言できる。私はお前らよりずっとよく今までの5人を見てきた。悲劇になるようなことは絶対に起こらない!」

‥私がいない間に何かあったのだろうかと思わずにはいられなかった。でも、こんな雰囲気の中で声を発することもできなくて、視線を泳がせて、唇を噛む。何度も飲んだ、鉄の味がした。

「いいか。今日からもう手出しはさせない」
「どういう意味だ」
「木の葉に住む封印の器達に関しては、火影直轄の暗部として私の背中を守ってもらう」
「‥なっ‥何を言っとるか!!」
「5代目‥!?」
「何を驚くことがある。その代わりお前らのことは私が守ってやる。‥悪くない条件だろ?」

この人、自分が火影だって分かっているのだろうか。それでも満足そうに笑いながら振り向いた綱手様の顔を見た瞬間、ゆっくりと目の前が滲んでいった。

2018.04.30

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