叫び

「……い、った…」

体が痛い。お腹の辺りや胸周りがズキズキする。目を覚ました私の視界は酷くぼやけていて、そして心無しか目が開きにくい。ゆっくり腕を動かすと、点滴のチューブが繋がっていた。なんで、何がどうなって私はここにいるの…ここ、病院でしょお…?体を横向きにしてそっと布団に潜ると、ズキズキとする箇所を確認した。

「……手術で開いた、傷…?」

雑ではあるが、色んな臓器を切り取るのに適した場所に肉を開いた痕がある。誰が?何の為に?傷を手でなぞっていると、悪寒と記憶が一気に蘇ってきて思わず目を見開いた。

なんで…!!?なに、なんでこんなことになってるの…!!?

キーちゃん!!!?

「…あ、ぁ」

千本に貫かれ、血濡れになった小さな体。毒に蝕まれて見るに耐えない程の紫色が脳裏で再生され、悲しさと辛さで吐きたくなる。自分の体の傷は自分でやったものだと思い出した。私の身内みたいな存在で、理解者。木の葉に来て、忍ではない普通の家庭に養子として引き取られた私はその家庭に馴染むことができず、そして懐いてくれない仮親も愛想を尽かし、捨てられ、私も捨てた。そこに突如として現れたのがキーちゃんだった。長い付き合いで、もちろん喧嘩もたくさんした。でも、色んなことを教えてくれた。忍術も、医療も、友達の作り方も。

「ど…して…どー、して…!!!」

あの時、私はキーちゃんを助ける為に自分の臓器を削った。虫と人間、違うなんて分かってる。でも、あの時余裕なんてなんにもなかった私に、まともな思考なんてなかった。何か足しになればいい、命さえ繋げれば、あとは……なんて、頭のどこかではキーちゃんはもう動かないって分かってたのに。分かってたけど、でも、信じられなくて。信じたくなくて。

「セナさん!?」
「、サクラちゃ」
「起きたんですね!大丈夫ですか!?」
「キー…ちゃん、は…」
「…ごめんなさい…私が見つけた時には、もう…」
「っ…誰……?」
「え…?」
「誰に殺されたの!!?千本と毒だった!!!どうしてキーちゃんだったの!!?狙いはきっと私だったはずなのに!!どうして!!」
「落ち着いて、」
「許さない!私がキーちゃんを殺した奴を見つけて絶対に殺してやる!!」
「セナ、傷に響くから大人しくしてろ」
「綱手様!!」
「サクラ、部屋から出てろ、私が診る。セナ、サクラから腕を離せ」
「絶対に私の血が関係してるんですよね!?そんなの、キーちゃんは関係なかったのに!!」
「少し黙れ!!!」
「血…?」
「サクラ!!早く出てろ!!」
「は、はい!!」

追い出されるように部屋から出たサクラちゃんを横目に、私はひたすら叫んでいた。キーちゃんが殺される理由なんて何も思いつかない。だって彼女は口寄せだから。そして殺された可能性と原因はきっと同じ。私とずっと一緒にいたからだ。"深月"の"純血"である私が。

「ったくお前は…少しは自分が特殊な存在だということを自覚しろ!里の機密事項を易々と口に出すな!」
「だって…キーちゃんは…!!」
「…お前を狙ってキンに手を出したと決まったわけじゃないだろ。可能性はあっても100%というわけじゃない。…まあこんなことがあった後に難しいと思うが、少しは冷静になれ」
「っ…」
「落ち着いたらでいい。何があったか話せるようになったら話せ。正直キンの体に残ってた毒には気になる点がある。大抵の薬剤師に調合は難しい毒だ。…お前でも相当な時間がかかるだろう」
「…綱手様、今、キーちゃんは…」
「……お前は見ない方がいい。どうしても見たいならお前の心が冷静になってからだ」

そう投げやりそうに言った綱手様は目線を落とした。私も覚えてる。バラバラにされた羽を。体を。でも確かに、今キーちゃんと冷静に会えそうもない気がして下を向くと、点滴の打たれた腕を見つめて怒りも悲しみも声に出さないように固く口を閉じた。

2016.03.31

prev || list ||