負の感情

セナが倒れたのは、1種の拒否反応でもあったのかもしれない。綱手は、鑑識にかけていたキンの資料に目を通しながら小さく息を吐いた。キンは、その体の水分と同じ量の毒によって絶命していた。主成分は恐らくアマニチン、ただ、かなり緻密に色んな薬を配合していた為か、詳しくは鑑識でも分析できなかったらしい。

「初めまして。伝説の3忍の綱手って…え、貴女?」
「あア?!………蝶?」
「…………酒臭い」
「飲んでるんだ、当たり前だろ!」
「あ〜!もう駄目ですって綱手様!たまには控えてください!」
「3忍ってもっと威厳あるものじゃないの…?」
「初対面から礼儀のなってない奴だな!!綱手とは私のことだ!!なんか用か虫の分際で!!」
「出直します」
「シズネ!!なんだこのめんどくさい奴は!!」
「本当すいません…虫の居所が悪いみたいで…」

初めてキンと出会った時、綱手はまだシズネと色んな場所を渡り歩いていた。結局なんで綱手を探していたのかは分からなかったが、その後綱手が5代目火影に就任した頃には、セナと一緒にキンが木の葉に住んでいたのだ。

「思えば謎が多い奴だったが…」

蝶なのに異常な程の人間に関する医療の知識(もちろん虫も)、自分の暮らす場所に帰らずセナと共に過ごしていた事、まるで人間みたいに人の気持ちに敏感だったこと。

「そういえばヤマトがこの間キンのことで私に聞いてきたな」

「はい……いや実は前から疑問だったんですが、キンさんは本来居るべき自分の場所に戻ろうとしないじゃないですか。なんでだろうと思って……」

あの時はそのまま流していたが、よくよく考えれば気になる所ではある。口寄せとは力を貸して欲しい時にこそ呼ぶものだ。本来なら口寄せ動物達にも兄弟があり、家族があるはずだ。

「……とはいえ、セナの口寄せ動物の巻物………どこの山に埋もれてるか……」

資料や巻物でいくつかの山になった火影室を見渡しながら溜息を吐いた。片付けておくべきだった、と、いまさら後悔しても後の祭り。そもそも誰の為に色んな本をひっくり返したと思ってる、と口をへの字に曲げて悪態をつく。

「はあ……探すか」

丁度誰か雑用でも任せられるような奴が扉を叩かないかと思いながら、綱手はゆっくりと立ち上がった。








「…悪魔だな」

暗闇の洞窟で一息ついていたレノウの横で、ちらりと空色の髪を揺らした忍が笑った。その笑った顔を見て心底不快だと顔を歪めたレノウは手裏剣を手に取ると、至近距離で投げつけた。が、何かに阻まれて手裏剣は乾いた音を立てると、そのまま地面に落ちてしまった。

「抜忍なんですよ。悪魔とそう変わらないでしょう」
「娘がああなるの分かってて親友を殺すなんて中々おっかねえわ」
「…貴方こそ考えている事は私と変わらないでしょう。自分が悪魔ではないとでも思っているんですか?」
「なんだよ。本当は悲しくてしょうがないって?」
「もちろん。スミレは親友でしたから」
「またいずれ同じ事言うんだろ。"もちろん、ハヤは娘でしたから"って」
「馬鹿言わないでください。ハヤなんて、スミレに抱いてるほどの感情なんて欠片もないですよ」
「…やっぱ悪魔だわ、アンタ」
「貴方も例の子、殺したいと思っているはずです。いちいち言い合いするのはやめましょう。くだらない」
「憎しみのレベルが違えんだよ……一緒にすんな」

2015.09.25

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