ナミダ

「スミレ!!お前には前線に立つようにと通達が来ているんだぞ!!何故行かない!?」
「死ぬのが分かってて行けるわけないじゃない」
「忍のくせに死を拒むのか!!」
「うん」
「…スミレ。貴女は一族の中でも優秀な医療忍者。貴女が前線に出れば救える命があるかもしれないのよ」
「私にはセナがいる。こんなでも母親なの。ソイもいない今、セナの親は私だけなの」
「我が一族の跡目としても恥ずかしい限り…!!国の重要任務をなんだと思っている!!お前は古くから"深月"一族を統べてきた血筋の1人なんだぞ!?お前が出ねば他の皆に示しが付かんだろうが!!」
「国の長は焔一族のヒグレ様よ」
「そういうことを言っているのではない!!!」
「…」








「セナが、木の葉に…?!」
「そうだ。だからお前は前線に出ろ。これは命令だ」
「ちょっと待ってよ、なんで!?断ったでしょ!?母親は私でしょ!!?どうしていつも父さんも母さんも勝手なことばっかり…!!」
「修羅との戦争に深月の力は必要なのよ」
「私は行かない!!!」
「スミレ、これは里の命令だ!!!」
「里の命令だから何!!?里の命令だったら父親のいない1人娘を捨てて戦争に行かないといけないの!!?」
「そうだ」
「そんなの横暴すぎる!私は絶対に行かない!!」
「おい!!!スミレどこに…!!!!」








「…本気か、スミレ」
「本気です。お願いします長老、私もう時間がないんです、いつここにいることがバレるか…!」
「少し落ち着かんか…娘に何も言わずに出て来てよかったのか?」
「だってもうあの場に戻ったら私は戦争に行くしか…」
「…」
「人間として生きられなくても、術も力も全て失っても、私はセナのことを覚えてるし今まで培ってきた知識は忘れない。セナも最初は"蝶"になった私を信じないかもしれないけど…!!」
「…分かった、もうよい。何も、言うな」








「…覚え、て ないの…?」
「うっ…ひ、ひかりのくに、って、どこ…?」
「ど、う し…て 」








「…師匠」
「どうしたサクラ。無事に手術は終わったんだぞ、どうしてそんな顔を…」

集中治療室に籠る事2日、セナの容態もなんとか落ち着き医療用器具を片付けている最中に、何かを見つけたのかサクラが小さく声を発した。驚きと困惑、そして悲しみすら含んでいるような声色に綱手とシズネはサクラへと振り向くと、そのサクラの視線がセナに向いていることに気付いて2人も同じように目線をセナへと向けた。

「……、」
「綱手様、セナが…泣いて…」
「…………そんなこと、見れば分かる」
「そう、ですよね……あの時もかなり、混乱している様子がありましたから…」
「…」

まだ意識も戻らないうちからセナの頬に流れる涙は、そのままシーツへと落ちて染み込んでいく。セナの泣いている姿なんて1度も見たことがなく、それどころか泣く事さえも恥なんだと自分で豪語するほどなのに。あの日のことを思い出しているのかとセナの涙を拭った綱手は、シズネにキンを乗せた銀のトレイを解剖室に持って行くように促し、サクラに後を任せて集中治療室から離れていった。

2015.02.06

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