孤独の再来

「セナさんまだ来てないんですか…」
「最近真面目に仕事をやっていたと思ったらまたこれか‥!!」

朝、綱手様に呼ばれているとの伝言をイズモさんから受け取った私は火影室へ出向いていた。そして入るや否や「セナが来ないんだよ!!」との怒声が飛ぶ。持っていた書類をぐしゃ!と勢いよく握り締めた綱手様は時計にちらりと目を向けながら、怒りの溜息をぐちぐちとこぼしていた。うう、怖い…

「というわけでサクラ、お前セナを連れて来い」
「…分かりました。でもどこほっつき歩いてるか…」
「とりあえずヤマトの所に行ってこい。いなかったら深月病院、そこもいなかったら手当り次第に探せ!」
「抜忍レベル…」

なんとなくセナさん探して来いって言われるような気はしていたからそこは良いとして、探すのが大変かもなあと溜息を吐いた。でも、ヤマト隊長の所はいるはずないんだよね。さっき点滴の確認してきたから、先に深月病院を見に行こうっと。ガミガミぐちぐちと鬱憤を晴らすように文句を垂れ続ける綱手様へ、空笑いを返しながら後退るように火影室から離れていくと、扉を閉めてああ…と肩を落とした。

大体セナさん今日は朝からこっちで仕事だって分かってるのにほんとサボりと遅刻は勘弁してほしいわよ!しゃーんなろー!!最近真面目だったのになあと思うのは私も同じだから安心してたけど、癖って中々治らないもんだよね…今更それを痛感しつつよしっと腕まくりをすると、早足で深月病院を目指した。








「セナさーん、サクラですー!!」

着いた先、コンコンと病院玄関の扉をノックをしてみた。いない気はしてたよ…とりあえず何度も呼んでみればキンさんでも出てくるだろうと思っていたけど、キンさんすら出てくる気配はない。そういえば、キンさんがこんなに呼んでも出てこないなんて変…?

キンさんは気配や声に敏感で、いつも誰か来ればひらりひらりと小さな小窓から出迎えてくれた。朝からどこかに出掛けてる、ということなのかな…それはそれでどうしような…なんて考えていた時だった。

…鉄…?と、薬品の臭い…。鼻を掠める鉄臭い匂いに気付いて、扉を叩く手が勝手に止まる。同時に違う異臭にも感じて小さく眉を寄せた。

「セナさん…!!?」

急患でも来たのかと思ったけど、だったらまず扉に鍵がかかってるはずが無い。中で何かあったんだと直感した瞬間、私は声を張り上げていた。

「セナさん!!何かあったんですか!?キンさんは!?いないんですか!!?」

叩いても叩いても、中から誰かが出てくるような気配はない。まさかいつかのセナさんみたいに扉を破壊するわけにもいかず、病院の窓を手当り次第に探りまくった。

「っ、開いた!!」

ガタンと裏側の小さな窓が開き、そこから体をねじ込んで中に入ろうと躍起になっていると、中扉が中途半端に開かれていた隙間から血溜まりが見えて自分の目を疑った。

「……セナ、さ…」

驚いた拍子にガタガタと窓を揺らしながら体が床へと落ちていく。中扉の先に視線を向けると、考えもしなかった光景に思わず喉が鳴った。

「…っ何やってるんですか!!!?」

医療用のメスが血に濡れたまま数本床へと乱雑に投げ出され、ぺたんと床に座り込むセナさんの体からは複数の傷口が開いておりそこから大量の血が流れ出ていた。何をどう理解すればいいか分からなかった。見た所敵にやられただとかそういうわけではなさそうだったから…傷の開き方が医療忍術の行う医療のそれとよく似ていたからだ。

「酷い…!!なんでこんなことして、」

ふらふらとをしながら滅多に使うことのないであろう劇薬品に手をかけ、半分虚ろ半分躍起になっているセナさんの目を見て背筋が凍りつく。そしてセナさんの目の前に小さく切り取られたような肉塊と、バラバラになったピンク色と紫色の何かを初めて視界に入れて、私はセナさんの体を抱き締め、掌で彼女の視界を遮った。

2014.12.21

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