最期は突然でも必ず訪れる「物語」

「…私を殺すの?」
「色々面倒なんですよ、貴女が生きていると」
「どうせもうすぐ死ぬわ」
「だからです。どうせ自分が死ぬ間際にでもなったら火影に全て話すつもりでしょう?貴女ほど"命を与えられた生物"に詳しい知識を持つ者はいない。寿命くらい分かってる…違いますか?」
「…」

冷えた視線をキンにぶつけるレノウは緩く笑っていた顔を引き締めて告げた。かつては"親友"として、"良きライバル"としてお互いを高め合っていた存在だったスミレとレノウ。しかし、そんな頃には決して向けられることのなかったレノウの表情にスミレは小さく唾を飲み込んでゆっくり口を開いた。

「…変わったね、レノウは」
「スミレはそんな姿になっても全然変わりませんね」

ひらひらと羽を動かしながら舞い上がったキンに、レノウは眼球を上へと動かすと、クナイの切っ先も同じように上へと持ち上げ、後ろの壁にトン、と右の羽ごと突き刺した。

「っ…!!」
「貴女私が本気じゃないと思ってたでしょう?私は本気ですよ」
「確かに…光の国がかつての修羅みたいになってしまったことについては否定できない…けど…だったらどうして親友の私に何も言ってくれなかったの!?私だったら力になってあげられたじゃない…!!」
「なってあげられた?馬鹿を言わないでください。"純血"である貴女が一体国の何を変えられたんですか?」
「っ…どうして、そんなこと言うの…?!私はレノウのこと…!!」
「キーちゃん、誰か来てるのお〜?」

レノウに叫ぶように大声を上げ始めていたキンの声がハッと止まる。外から聞こえてくるのは、いつものまったりしたようなセナの声だった。一瞬の隙をついてレノウがクナイで刺した羽ごと無理矢理引きちぎると、飛べなくなったキンの体はゆらゆらと冷たい床へ落ちていく。

「…脆い」
「レノウ…!!セナにまで手を出したらいくら貴方でも許さないから…!!分かってるわよね?!」
「馬鹿言わないでください。貴女の娘こそ私達の真の狙いでもあるんですから、殺したりなんかしませんよ」
「…!?何、どういう意味…?!レノウ、貴方誰と繋がってるの…!?」
「何も言うことはありません。…さようなら、スミレ」

突き放すように告げられた言葉の後、動けないキンの上から大量の千本が降り注いだ。なんで、どうして。そんなことを口にする暇もなかった。トス、トス、とキンの体に刺さっていくそれには即効性のある毒が塗られていた。「娘の為に蝶の口寄せとして生きた」キンはまだ死ねないとばかりに必死に体を動かそうと躍起になっていたが、1分もしない内に目の前が霞む。最期に見たレノウの顔が一瞬だけ歪んだ、気がした。








テンゾウとの密会(ではないけど)も終え、もう面会時間は過ぎていますと後輩の看護婦に押されて帰ってきた自宅の前で私はキーちゃんと誰かが小競り合う声を聞いた。珍しい〜…キーちゃんが怒鳴ってる…なんてぼんやり首を傾げながら扉に手をかけた。明日はサスケの為に例の薬を作って〜、明後日には渡さなきゃいけないんだよなあ〜…そして部屋の中に入ると、いつもならしない仄かな女性特有の匂いがした。キーちゃんにお客さん…?にしても、知らない匂い…。

少しだけ眉間に皺を寄せて、ぺたぺたと歩き居間へと入る。何もない、キーちゃんの姿もない。どこか嫌な予感を感じてキョロキョロと回りを見渡すと、壁に刺さったクナイが見えた。そして打ち付けられたような千切れたピンクの羽…

ドクン

見たことのある色に、思わず額から冷や汗が流れた。待って、よ…なんで、あれ、キーちゃんの羽…?クナイの立てられた壁の近くに足が縺れそうになりながら走り寄った。刺さったクナイを思い切り引き抜いて薄っぺらいピンクのそれを手に取り、息の仕方が分からなくなりそうだった時に見えた足元の先。そこには、まるで変わり果ててしまったキーちゃんの姿があった。

「キーちゃん!!!?」

なんで…!!?なに、なんでこんなことになってるの…!!?数10本程の千本に小さな体を打ち付けられたキーちゃんの体からは虫特有の液体と血に濡れ、濃い黒色が際立つ毒のような症状も見て取れた。どうしよ…なにこれ、どうしたらいいの…!!?…どうしてこんなことになってるのかなんて、全く理解ができなかった。医療忍者の癖に、こういう時に限って頭が回らない。持っていたクナイをかしゃんと落とすと、その場にしゃがみ込んだ。

「…う、そ、…嘘、だよ ね 」

毒の塗られていない千本の先に触れないように触れる。手が震えて毒の塗られていない側の千本の先が刺さり、涙のように指から鮮血が流れ落ちた。

2014.11.30

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