それぞれの愛のカタチ

「…あ、そういえば…」

軽く溜息を吐いて、腰に回っていた手をするりと外したテンゾウの声で我に返ると、そっと目を開けた。ほっぺた赤いよお?ツンツンつつきながらにこにこ笑っていると、「本当にやめてくれ…」と呆れるように零す。ゆっくり腕を動かしているのを目に映すと、しょうがないとばかりにテンゾウの体に押し付けていた自分の体を起こした。

「なあーに?」
「キンさんのこと…何か分かったかい?」
「なあ〜んにも。テンゾウは?」
「いや、僕も……全然」
「そっか…」

苦い顔をするテンゾウに、「ま、そんなに落ち込んでないしこれからこれから!」と告げてぺしぺしと胸板を叩く。だよねえ…そもそも口寄せの資料って有名どころでもない限りほとんどないし…

「キンさんに変わった所は?」
「ないよお〜。今日は珍しくずっと寝てるけど」

よいしょ、とテンゾウの上から降りて椅子に掛け直す。そういえば私が出てっても寝てるって珍しいよねえ…とぼんやり思い出しながらテンゾウの腕を掴んだ。

「え、なんだい?」
「マッサージ!してあげるのお!」
「ああ、ありがとう」
「さすがサクラちゃん、マッサージ上手だなあ〜。腕、だいぶ動くようになってるからなあ〜。セナの腰に手を回してる時のテンゾウの腕結構強かったもんなあ〜」
「…煩いよ」
「ふふふ〜」

にやにやしながら腕を上から下に流すように揉み解すと、ふいっとそっぽを向いたテンゾウに笑った。大人なのに、なんか今のテンゾウ子供みたい!可愛い!

「……さっきの、本当だからね」
「え?何があ?」
「…」
「?」
「僕はまだセナのことが好きだよ」
「…ありがと、気持ちだけもらっておく〜」
「…」

ごめんね、テンゾウ…一生貴方の気持ちには答えられないから。真剣に告げるテンゾウの目から少しだけ目をそらすと、緩く笑って返す。無意識のうちにマッサージをする私の手は弱くなっていた。









「…あの手紙、貴方だったんだ…」
「知らないなんて可哀想だと思っただけです。だってもうすぐ死ぬんでしょう、スミレ」
「その割りには随分回りくどいことをするよね。…どうしてこの姿なのに私だって気付いたの?」
「"元親友"としての勘、と言ったらいいでしょうか」
「…すっごい白々しい」

突然深月病院内に現れた影、そしてキンは居間の一角で話込んでいた。表情は見えないが呆れるように溜息を吐いたキンに、灰色の衣を来た女がくすっと笑う。

「…本当は貴方に言いたいこと聞きたいことはたくさんあるんだけど、1つだけにしておく。どうして…里を抜けたの…?」
「私がコウの里の生業だかなんだかを嫌いだってことくらいスミレは知ってるでしょう?」
「…」
「ハヤの前に産まれた、ヤツギはすぐに殺された…私は…あの人に似たヤツギを愛してたのに……ヤツギに愛を注ごうと思っていた心を、次に産まれたハヤに注ぐことはできなかった」
「…レノウ」
「私はハヤを愛せないと思ったから、里を愛せないと思ったから里を抜けたんです」

淡々とスミレにそう告げる"レノウ"と呼ばれた女は薄っすらと微笑み返すと、クナイを取り出してキンに切っ先を向けた。

2014.11.11

prev || list || next