自分との約束

「なんだあ。家出る時から既に熱あったんだあ〜…じゃあもういいじゃん。勝手に治してね〜私火影室に戻りまあす!」
「病人にかける言葉とは思えねぇ…」

ぱちんと1つウインクをして、その場から去ろうとしているセナさんに呆れ溜息を零す。いや別に俺が来て欲しいとか言ったわけじゃねーけどよ、そんなに雑に扱われっと腹立つんだよな!誰だよこの人がすげー医療忍者とか言ってた奴は!

「あ、とりあえず〜ちゃんと暖かくして寝てなよお。赤丸とヒナタちゃんはうつったらいけないからさっさと退室するよ〜に!!」
「あ!あの、ちゃんと診た方が…!」
「大丈夫大丈夫〜、まあキバの顔色みたらすぐ分かったからあ。それにそんだけ元気に喋れるんだったら食欲もあるでしょお?流行病や感染とか面倒なのだったらもっと違う症状が目に見てとれるものなのお。もう、ヒナタちゃんは優しすぎよお〜。でもそんなとこが可愛いくて好きよ!うふ」
「え、あ、え…」
「なんで赤くなってんだヒナタ…」
「じゃ!そういう訳で一緒に退出しましょ〜ねえ!」
「あっ、じゃあまた、キバ君…!!」

そのままわたわたとするヒナタと、赤丸の白い毛並みを押して病室から出て行ったセナさんを見送った。…暇だ。暇すぎる。ただの熱くらいで病院送りなんて俺も情けねえよなー…

ーアイツ、こねーかなあ…なんて。窓越しに空を眺めると、その色によく似た髪の毛のアイツをふと思い出して深く息を吸い込む。よく喧嘩したりするけど、アイツがいると退屈じゃなくなるんだよな…こんな時にいれば丁度いい暇潰しなんだけどよ…

「…つまんね」








「やっほ!」
「…セナ」

やっと仕事という名の綱手様から解放されて私が足を運んだ先は、もちろんテンゾウの病室である。サクラちゃんがいるかと思ったけど、もう既に別の病室へ行っているのかいなかった。それはそれで好都合である。にひにひしながらテンゾウのベッドへと近付いていくとぼすん、と音を立てて端へ座り込んだ。

「何しにきたんだい?仕事は?」
「む!ちょっとお、折角来てあげたんたから少しは嬉しそうにしなさいよお!」
「セナが来る時は大概何かに巻き込まれる時だからね…またドア壊したりしないでくれよ」
「疫病神みたいに言うなんて酷い」

ゆっくりながらもむくっと上半身を起こしたテンゾウの体を慌てて支えると、ありがとう、なんて言いながら苦笑いしていた。目線が右往左往している。泳ぎまくっている。どうしたの?とは……言わずに口を尖らせつつ目を弓なりにさせた。

「テンゾウのえっち〜」
「なっ…!?」
「まあ?見ちゃう気持ちは分かるんだけどお〜…あれからセナ、また大きくなったからねえ」
「自覚があるなら隠してくれてもいいんじゃないかと思うんだけど…」
「テンゾウを誘惑する為だから文句言わないでよお」
「ごフっ…」

口に何も入ってないのに吹いた。吹いたよこのお方。どうやら唾が器官に入ったらしい。顔色を赤くしたり青くしたりしながら噎せているのが面白くて思わずあはは!と声を上げて笑うと、むっと眉を寄せたテンゾウがぐいっと私の胸倉を掴んできた。

「…ッわ!?」

どさっと布団に倒れこんだ拍子にテンゾウの上に乗っかってしまう。…って何やってんのよお!思いの外テンゾウの顔はすぐ目の前だ。ああ、大人になったなあこいつめ…私より年下のくせに(これでも)…

「あんまりからかいすぎるのはよくないよ」
「からかう?ふふ、どうしたのお?急に」

上体を起こそうと思っても、テンゾウの力強い腕が腰に回ってきて動くに動けない。なんだか私が押し倒しているような形だけど、襲って(?)きてるのはテンゾウである。そんなことができるようになったのか…全く歳を取るとは恐ろしいことだ。テンゾウの端正な顔付きを見ながらするりと頬に手を滑らせた。

「セナ」
「んー?あら、もうすぐ三十路も近いっていうのにお肌すべすべ〜」
「セナ、僕はまだ」
「私のことが好き?」
「…分かってて聞いたよね」
「前も言ったでしょお?特定の人は作らないって〜」

そう言いながらテンゾウの目を覗き込むと、昔同じことを言った若かりし頃の自分が映った気がしてそっと目を伏せた。

2014.11.08

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