その数秒すらも惜しい

「綱手様仕事終わりました!!はいカルテ!!」
「おお、随分早かったな」

バターン!!とすごい勢いで火影室への扉を開けると、ぜーはーぜーはーと息を切らせつつ机の上にカルテを叩きつけた。ていうかね、"ヤマト"って名前多すぎだよお!もう昼過ぎだし!最後に健康診断した"ヤマト"さんなんて70過ぎたおじいちゃんだしエロじじいってやつだったし!鼻の下伸ばしてセナの体見てるんじゃないってえの〜!

「汚らわしいぃ!」
「だったらベストの前全部閉めておくんだな」
「ぎゃっ!?なんでえ!?」
「聞かれたくなかったなら口も閉じろ」

ああ、私無意識に口に出してたのかあ…びっくりした〜、とうとう綱手様人の心も読めるようになったかと思っちゃったよお…。ふうー、と深く息を吐いて「それでは!」とこの場からさっさと離れようと、くるりと綱手様に背中を向ける。ほほほ。綱手様が深月病院に医療忍者派遣してくれたから私は只今から自由の身だ!!そんな自分へのご褒美にテンゾウの所に行こ〜っと!そんな時である。目の前の扉がさっきと同じようにバターン!と開いたのは。そして顔面打った。

「い"ぃっ…たーーーあい!!!」
「木の葉の気高き碧い猛獣マイト・ガイ!!任務完了しましたあァ!!…お、セナ、そんな所で何すっ転んどるんだ?」
「誰のせいですかあ〜!?鼻思いっきりぶつけたんですけどお!!」
「そうか。いやなんだ、悪い悪い」
「嫁入り前なのに顔に傷残ったらどうするのよお!」
「ガイは今回キバとヒナタとのスリーマンセルで要人警護だったな。2人はどうした?」
「キバが帰り際に熱を出してしまったので、ヒナタが付き添って先に病院へ行っております」
「え〜すごいスルー…」
「熱?」
「原因は分かりませんが、微熱程度だと」
「キバが微熱ねえ………おいセナ、何勝手に退出しようとしてる」
「ひィッ」

シカトされてるからもういいや…それに今しかない。そろーりそろーり、まさに抜き足差し足忍び足で火影室の扉に手をかけた所で綱手様の睨む視線に気付き、私の足が凍り付いた。これは嫌な予感しかしないパターンのやつだ…ゆっくり振り向くと綱手様の口元が笑っている。もう一度言う。口元が笑っている。

「お前、ちょっとキバの様子を見てこい」
「勘弁してください私は今テンゾウに会わないと死んでしまう病なんですう…」
「キバの様子を私に報告したらもう今日は解放してやるぞ」
「やだ素敵!大好き綱手様!!」

綱手様の粋な計らいに目をきらりと輝かせて、思いっきり扉を開いて廊下に飛び出した。ガイの顔がぽかんとしていたがそんなの知るか!さっさとキバの様子見て終わらせちゃうからねえ!待っててテンゾウ!…あ、ちなみにこれは心の声である。

「くぅ〜ッ!!青春してるなあセナの奴!俺も青春しに行くか!!」
「なんだガイお前まだアイツのこと諦めてなかったのか…」

小さく呟いた綱手の声は、勝手に燃え上がっているガイの耳には少しも聞こえていないようだ。








「悪ィなヒナタ」
「ううん、それより大丈夫…?」
「ただちょっと熱あるだけだっての。そんな心配すんなって」

キバの言葉に少し心配そうに鳴いた赤丸は、頭をゆるゆるとキバに撫でられながら少しめくれあがった布団を直している。ヒナタは滅多に(というか初めてじゃないだろうか)熱なんて出さないのに珍しいな、なんて考えながら静かに椅子に腰掛けていた。

「キバ君…熱あったなら言ってくれればよかったのに」
「こんな少しの熱くらいどーだってなるからよ。それに今回の任務、俺行かなかったらヒナタはあの熱血ガイ先生とツーマンセルになってたかもしれねーんだぜ?」
「う、うん…」
「もし感染ったらいけねえから赤丸も先に帰ってろよ」
「キバ!!」
「うお!?」

静かな室内に激突するかのように入ってきた人物を確認する暇もなく、がっと肩を掴まれたキバは驚きで声を張ると、同時にオレンジ色の髪の毛を視界に入れた。

「ちょっと待てなんなんだよ一体!」
「どこが痛い?苦しい?1分以内10文字以内で完結に答えなさい!」
「セナさんに掴まれてる肩が1番痛ぇよ!!」
「えっと…あ、あの…キバ君は朝からちょっと体調悪かっただけで…」

2人をあわあわと見ていたヒナタは恐る恐るセナに声をかけると、「そおなの!?じゃあ私もういいじゃーん!」とにっこりしながらヒナタへと振り向いた。

2014.10.26

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