秘伝医療忍術 "縫合培養術"

「やっほ〜お、サークラちゃ〜ん」
「セナさん!やっと来た!こっちお願いします!」

バタバタとハヤちゃんに続いて日向ネジ君の病室へと駆け込むと、複雑な手術跡から薄っすらと滲み出ている血を拭いながらチャクラを流し込むサクラちゃんの姿があった。ネジ君、1番酷かったからなあ…帰ってきた当時のネジ君の姿を思い出すと、よく息を吹き返したなあと自分でも感動する。

綱手様とシズネ、サクラちゃん等、高等医療忍術者である人物による"治活再生の術"に加え、私の一族が開発した医療術…深月一族の医療秘伝忍術とも言われる"縫合培養術"。縫合培養術とは、誰かの臓器の1部を軸に億単位の微生物をチャクラで組み立て、体の中の切れた血管や細胞と臓器を縫合させる術だ。しかし、臓器を必要としている者と同じ血液、同じ成分比率を持っていないと生きていくことはできない。もちろんネジ君は戦争で臓器をいくつかやられており、その中には心臓も含まれていた。

臓器を作る為にはドナーが必要不可欠で、その際手術でほんの少し必要な臓器を切り取らなければいけない。これには相当な技術と腕が必要になる。もちろん、少しでも失敗すればドナー側の命も危険に晒される。幸いにもネジ君とよく似た臓器を持っていたのは私で、自分の体の中にある臓器を研究していたこともありさほど時間を食うこともなかった。それでも手術に丸3日かかってしまったけど、それでもなんとかなったのは正直ネジ君の根性…だと私は思う。だってねえ…見てよお隣の美少女を。心配そうに綺麗なお顔歪めちゃってえ…こんな天使みたいな彼女さん(なのかは知らないけど)残して簡単に死ねるわけないもんねえ。

「セナさん聞いてます!?」
「あ〜、分かってるよお、ちょっと見せてねえ」

あはあはとサクラちゃんに笑いかけると、チャクラを流し込んでいる手の上から私の手を添える。指を動かしながら極細のチャクラを練り上げると、サクラちゃんの手の隙間から針を通すようにするすると組み込んでいった。

「まだ目は覚めてないんだねえ〜」
「はい。けど、ネジさんが生きてることに変わりはありませんから…って、集中してます?セナさん」
「このくらいご飯食べながらでもできちゃうから心配しないでえ?」
「真面目にやってください…!!」
「ハヤさんにぶん殴られても知らないですよ」
「あっはは!じょーだん!」
「に聞こえないんですよ、セナさんのは!」

ガミガミ怒るサクラちゃんを見てると、なんだかどっちが年上なのか分からなくなってくる。なんていうか、物凄く口煩いお母さんになりそうだ。前から思ってはいたけどナルトってドMだなあ…あ、もちろん本人にはそんなこと言わないよお?そこで私の人生が幕を閉じちゃうからねえ〜。うんうん頷きながらそう考えていると、ハラハラしながらネジ君の様子を見ているハヤちゃんが視界に映った。

「そんなに心配しなくてもいいよお、肩の力抜いて〜」
「っ、だ、いじょうぶですよね…?ネジ、絶対に目を覚ましますよね!?」
「ハヤさん…」

余りにも必死なその顔に思わず笑っていた顔を引き締めると、サクラちゃんが小さく眉を寄せていた。異なる状況下で育ってきた2人がどうしてこんなにも強い絆で結ばれているのかは分からないけど、私はハヤちゃんを安心させるようににこりと満面の笑みを浮かべて口を開いた。

「ハヤちゃんが信じてないと、ネジ君安心してこっち側に戻ってこれないでしょお?」
「!」
「お帰りなさいは笑顔が1番なんだからあ」

その言葉に目を丸くしたハヤちゃんはぎゅっと拳を握りしめると、俯いて小さく頷いた。…っていうか、手術が成功した時点で死は免れた訳なんだからちょっとは安心してもいいんじゃないのお?まあ、目が覚めてくれるのが一番だもんねえ…私もそうだったし…

ぽわんと浮かんだテンゾウの顔を思い出す。あれから自分の考えは変わったかなあ…正直、次に会うのが怖い…んだよねえ…だって「やっぱり僕は…」なんて超暗い顔で言われたら私も凹むし…いや凹んでも説得頑張るけどさあ…

「す、ごい…」

横にいるサクラちゃんがぽつりと声を零したことで我に返る。ネジ君の体内、心臓の僅かな傷を塞ぎ終えると治活再生の術の上からさらに縫われた縫合を綺麗に治していく。このくらい私にとっては造作もないことで、感嘆の溜息を漏らすサクラちゃんに緩く笑いかけた。

「もう大丈夫だよお。前よりも頑丈に縫ったし抜糸もしなくていいしい。チャクラも必要ないから〜」
「…こんなに簡単にできるなんて、しかも綺麗…いつ見ても無駄がない…」
「やあだ〜照れちゃうじゃなあい〜」
「も、もう終わった、んですか…?」
「この深月セナさんにかかれば楽勝〜ってねえ!」

驚きを隠せないハヤちゃんの声に振り向くと、とたたっとネジ君の眠るベッドへと駆け寄り、きゅっと投げ出された右手をハヤちゃんの両手が包み込んでいた。心配性だなあ…恋する乙女。そう小さく囁いてサクラちゃんの肩に腕をかけると、2人を残してそっと病室から出て行った。

2014.10.14

prev || list || next