人を想う人の姿

「やめてください綱手様ぁ〜…これ以上は死んじゃう…カルテ恐怖症になっちゃいますよお〜仕事はもうしたくな…」

ガン!!!

綱手様に拳骨をくらった所で思いっきり目が覚めた。閉じていた目を開いた先にはおかしな角度で自分の家の内部が映っているではないか。ん?と首を傾げた所で椅子が倒れていたのを確認した私はああ、とぼんやり開いた掌を緩く握った拳で叩く。どうやら夢を見ていたようだ。で、床に転がった拍子に頭を打ったと…。というか夢の中までこき使われる私って一体。椅子から雪崩落ちた身体を起こすと、机の上で横たわるキーちゃんの姿を視界に入れた。

「いつの間に帰ってきたのお?ね〜」

椅子を立て直して座り込むと、ゆらりゆらりと揺れる触覚をちょんちょん触りながら問いかけてみる。も、起きる気配はないらしい。っていうかはちみつ飲んでないじゃん、折角用意してたのに…私の優しさを…なんて溜息を吐いていると病院の扉を叩く音が聞こえてきた。

「え〜…まだ8時じゃんかあ…開店は9時だよお…」

なんかデジャヴだ……とはいえ無視できないのはやはり変わらず、しょうがないと立ち上がるとなんとも珍しいチャクラの気配がした。珍しいというのはチャクラが珍しいのではなく、ここに来るのが珍しいということだ。というか初めてじゃないだろうか…

「はあい〜?」
「あ…初めまして。白魚ハヤと言う木の葉の上忍をしている者です。深月セナさんと言う方はいらっしゃいますか?」

扉を開けた先に現れた、麗しき姿に思わずうわあっと目を背けた。一応見たことはあるけど間近で話すとこうも眩しいのかあ…まさに美少女である。…って漫画か!

目の前で小さくお辞儀をする美少女・白魚ハヤは里でも有名な美人と名高いくノ一で、同時に私と同じ封印の器である1人だ。それを本人は知らないと思うけども…それを物語るのは右眼に受けた日向の印。彼女はこの印を"呪印"だと思い込んでいるらしい。そう言われているからそう思ってるだけなんだけど。まあ詳しい話しはいいかあ…今だ眩しいお顔から目を背けていると「あの、」と困惑するような声が聞こえて、慌てて姿勢を正した。

「…何か?」
「え?あ、なんでもないのよお〜!あんまりお顔が綺麗なもんだから直視できなくってえ〜…で、こんな所までどうしたのお?私に用事でしょお?」
「貴女が深月セナさんですか?お若いんですね…」
「それハヤちゃんに言われたくないんですけどお〜」
「いえ、そういうことではなくて…5代目の綱手様が貴女に、と仰っていましたので同じくらいの方なのかと…」
「あっ!!またあの人私に押し付けたなあ〜!?なんって勝手な!!ごめんねえ、私これでも忙しい身なのよお〜。今も薬調合とかしててえ〜」
「…寝癖」
「はっ!!!」

やっばい寝てたのばれた!!?慌てて右側の髪の毛を直す仕草をすると、冷静に「逆です」なんて言われて思わず乾いた笑いを零してしまった。あ、やめてその目、嘘です、嘘ついてすみません…

「綱手様が"深月セナさんならやれる"と仰っていたんです。お願いします」
「え〜…綱手様そんなに忙しくないでしょ絶対……まあ話しは聞いてあげるけどお。何がどうしたっていうのお?」
「ネジの傷口が少しだけですが開いてしまったんです、他の医療班の方やサクラさんにはできない難しい処置のようでほんの少しでも間違えれば完全に開いてしまうと…今は拡大しないようにサクラさんが簡単な処置をしてくれていますが…」
「私機械オンチだし力にはなれないと思うんだけどお」
「日向一族のネジです!」
「え?日向?…って、ああ、あの白眼の…忍界大戦で重傷だった子かあ〜」
「お願いします、綱手様はどうしても手が離せないそうなので…貴女に頼むしか…」
「綱手様何してんのお?」
「御意見番のお2人と大事な話しをされていました」
「ううわ…超めんどくさそうだねえ…」
「セナさん、」
「分かったよお…よっぽど大丈夫だと思ったんだけどなあ……とりあえずちょっと待っててねえ」

頭を掻きながら近くのボールペンに手を伸ばすと、ぐっすり寝ているキーちゃんに置き手紙だけを残して深月病院を出た。ハヤちゃんは冷静なのかと思い気や眼球が忙しなく動いていて、よっぽど日向ネジ君のことが心配なんだなあと、私はぼんやり笑みを浮かべた。

2014.10.06

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