蝶々のヒミツ

「焦ってる、ね…まあ、間違ってないか」
「…」
「…私は元々口寄せでもなければ蝶でもなかった…テンゾウと同じ忍として生きてた人間だったのよ」
「!」

落ち着いた様子でキンさんが話し出すな内容に耳を傾ける。"元々人間"…ということは、セナに見せてもらった紙切れの内容は本当だったのか…ひらひらと羽が揺れているのが視界でちらつく。

「今は第2の人生を歩んでるの。もちろん自分の意思で、だけどね」
「…どういうことなのか、最初から話してくれますか?それに、なんで急にそんな話しを僕にしてくれるのかも…」
「セナが私を人間だと告げられている紙を持ってた」
「…!」
「それに…私にはもう時間がない」
「…え?」
「近い内に…セナの側にはいられなくなる」
「どういう…」
「テンゾウは、セナが木の葉の里ではない光の国のコウの里出身であり"封印の器"と呼ばれる1人だということを知ってるでしょ。さらに"封印の器"の中でも1番特殊な"神獣"を宿す身になり"得る"…"その時"が来なければいいとは思うけど…でもだからこそ、木の葉の上層部達はセナを1番危険視してる。"修羅"との戦争が近付いてたあの日…"今の"一族の中でセナが1人木の葉へ送られることも分かってた。だからこそ私はこんな姿になってでもセナの側にいて1人じゃないってことを教えてあげたかった…」

"封印の器"…光の国という閉鎖的な国の隠れ里、コウの里でとある一族達が五行を創生したと言われる"神獣"を守る為に体を器として差し出している者のことだ。修羅というのは忍殺しで有名だった国の名前で、コウの里との戦争を引き起こした国でもある。その戦いでコウの里は敗れ壊滅し、戦争間近に木の葉へ送られたセナを含む封印の器達以外の忍達は全滅。光の国は人を失い廃墟と化した。これは随分前にセナが調べ出したことで分かった事実。その後暗部の後輩の1人や日向ネジ君の同期等、他にいた"封印の器"と呼ばれる人物達のことを僕だけが先に知ったわけだが…

セナのことをよく知る人物達は、彼女を"来るべき日の為"の封印の器と呼んでいるそうだ。他の封印の器達とセナが違う所は、その身にまだ神獣を宿していないという所である。

「…キンさん貴方は…一体誰、なんですか…?」
「そうね……私が人間の頃に呼ばれていた名前は"スミレ"。今のキンっていう名前はスミレを漢字で書いた時の違う読み方よ」
「スミレ?」
「そ。私はスミレっていうの。深月一族の、スミレ」
「み、つき…?!」
「私は………セナの母親よ」
「な…っそんな、こと…!セナの母親は"修羅"との戦争が始まる前に亡くなっていると…!」
「戦争に参加なんてしたら確実に生き残れなくなるのは目に見えてたからね…」
「…!?」
「…私は戦争が始まるよりも前に自身が口寄せを結んでいた蝶の1匹に頼み込んで禁術をかけてもらったの。第2の人生を歩む為に全ての"術"や"能力"、そして人間としての人生を全て捨てるリスクを受け入れた」
「…セナを残して自殺をしたと、いうことですか…?!」
「側にいる為には…それしか方法がなかった…深月一族には代々雷を自在に呼び寄せられる力がある、同時に私は医療に関しての知識も豊富だった。戦争に賛同的じゃなくても私は戦争に強制連行されるのが目に見えてた…けど、忍失格だと言われようと思われようとそれが嫌だったのよ。だって…セナにはまだ母親が必要だったし、何より一緒にいたかった…セナとは少しの間離れるだけでさよならというわけじゃなかったから…私は誰にも何も言わずに姿を眩ましたの」
「…」
「でも…私が一度死んで転生するまでの間にそれまでのセナの記憶は白魚一族に消されていた」
「白魚一族…封印の器の、1人…?」
「そう…白魚一族の血継限界は知ってるよね?癒無眼…あれは視界を奪う術。でもそれだけじゃない。眼の力を極めれば頭の中の記憶さえも奪う…あの時白魚を名乗る一族でそんな術を扱えたのは、確か…」
「ちょっと待ってください!なんでセナの記憶は消される必要があったんですか!?」
「セナはね、お母さんっ子で泣き虫で寂しがりやだったの。元々"当時"の深月一族はもう少数しか存在しなかったのもあってちゃんと面倒を見てくれる人もいなくて…それが私の最大の過失だった。戦争も近い…だから、私がいないとずっと大泣きしてたセナを煩わしいからと、深月の1人が白魚一族にセナを黙らせる為全ての記憶を消すように頼んだのよ。…早い話が厄介払い、ということね」
「それが、セナの記憶が何もなかった理由…」

人間の姿じゃないキンさんが今どんな気持ちでこんな話しをしているかが分からないが、少なくとも辛いという気持ちを心に押し込めながら僕に伝えてくれているのだろう。1つ1つの言葉を理解しつつ眉間に皺を寄せて瞼を閉じると、いつの日かよく泣いていた彼女の顔を思い出した。

2014.09.19

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