忍耐。‥忍だけにってか?

ウミと同居し始めて早1ヶ月。無防備というかなんというか…とにかく俺を全く意識していない彼女は、現在何10回目になる入浴中だ。夕方から任務に出て日付が変わる本当にちょっと前に帰って来たというのに…一応気を利かせて上忍待機室で少し時間を潰していたんだから、お風呂は済ませていてほしかった(こういうことも何度目になるかわからない)。あれから一緒に寝るという事件になることもなく過ごしてはいる。が、1つ屋根の下ということは変わりない為に、俺がどれだけ毎日苦労しているかを分かってほしい。特にお風呂後のウミなんて。や、俺も男ですから…

ばさりとベストを脱ぎ椅子に腰掛けて机の上に広げた小隊リストを手に肩肘をつくと、ガチャリと浴槽のドアが開く音にゆっくりと後ろを振り向いた。

「…あ、帰ってたんですね。お帰りなさい」
「ただーいま。…まだ髪濡れてるじゃない」
「すぐ乾きますから…小隊リストですかそれ」
「あー明日のやつのね。里の復興作業もそんなに人いらなくなってきたから最近増えてる抜忍の取り締まりで」
「そうですか」

ひょいっと俺の後ろから覗き込むウミから目線を外し、目の前の資料へと向ける。五大国が同盟を組んだと言えど、それをよく思ってない奴だってたくさんいる。これが最近抜忍が増えてきている理由だろう。第4次忍界大戦で生まれた忍同志の絆が深まっても、そう簡単にいかない奴だっているということだ。

「っていうかね、前も言ったけどお風呂は早めに済ませなさいよ。こんな時間なんだから」
「もう少し遅くなるかと思っていたんです」

ホットパンツが目の端でチラつく(タイツ履いてるけど)。謝ってはいるがそれほど気にすることでもないと思ったのだろう、ウミは何か思いついたように台所へと向かって行った。

さて、どうしようかねぇ。明日の任務。最近聞いた話だと、抜忍の捕獲に中忍を行かせたが重体で帰ってきたらしい…ということはそれなりにできる忍ということで。しかしその後、シカマル率いるウミとセナのスリーマンセルで隊を組んだ所なんとも呆気ない形で捕獲された…と。中忍以上ウミ以下か…差が歴然としすぎて分からん。まぁ拷問部に連れて行かれた抜忍は今だ口を割らないらしいが時間の問題だろう。なにしろ相手がイビキだからな…。俺はペンを取り、白いメモ紙にさらさらと数人の名前を書いていく。そして消去法で名前を消そうとした時、目の前に愛用の白いマグカップが静かに置かれて振り向いた。

「どうぞ」
「コーヒー?」
「目の下に隈が‥少し休んだ方がいいのでは」
「んー、ありがと」

とっても優しい心遣いは嬉しいよ。嬉しいんだけどねぇ…?実際寝れていない理由は任務じゃなく、毎日無防備すぎるウミが理由なのだと、俺は口に出さずに眉尻だけを下げた。しっかり人を見てはいるがそれが恋だのなんだのという感情の場合は違う。違うというかそんな感情を未だ知らないだけだと思うが…前にも言ったかもしれないが、とにかくそこだけは鈍感だ。

「先に寝ていーよ、もう少しかかるから」
「いえ、大丈夫です。それよりいつも先輩が読んでいる本、眠くなるまででいいので貸してもらってもいいですか」
「ぶふっ……?!ゲホッ、ゲホッ!!」

俺は飲んでいたコーヒーを吹き出しかけて噎せた。あの表紙の意味がまるで分かってない「なんでその反応?」みたいな顔をしているウミになんだか罪悪感が生まれる。そういえば20歳になったら読んでもいいよと言ったことがあるようなないような……っていうかその辺の教育は紅がしてくれてると思ってたけど‥そうじゃないわけね?

「これはね、まだウミにはわからないことばっかりなのよ。もっといろんなことを経験したら読ませてあげる」
「私もう25歳なんですけど」
「じゃあこの18禁の意味わかる?」
「以下見るの禁止。私は大丈夫ですよね」
「ブー。とにかく今のウミは読むと後悔するからだーめ」

「…ムカつく」

少しイラっとしながらぼふんとソファに項垂れるウミが、「貸してほしい」と言った俺の愛読書"イチャイチャシリーズ"を手に取り、机の中の鍵付き引き出しへと入れて俺は眉を寄せてほっと息をついた。

2014.02.25

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