これはこれは珍しい訪問者

「で、サスケは一体何しに来たのかなあ?」

やっと患者の入れ替わりが落ち着いたお昼過ぎ、店の前に「昼休憩」の看板を出してくれたサスケが戻ってきたと同時に声をかけた。起きた時にはすでに病院の前で患者が並んでいて焦ったが、何故かサスケが私の手伝いをすると申し出てくれた。まあ手伝ってくれるのは非常にありがたかったので、サスケには変化の術で助手っぽい女の子になってもらい(これがまた可愛くて…というのは言わないけど)、そのまま薬出してもらったりカルテ渡しに行ってもらったりしていたのだが、落ち着いて考えれば医療忍者の端くれでもないただのエリート暗部が、わざわざ手伝いにくるわけがない。

なんだよ今更、なんて言いたそうな顔を浮かべながら私の元へ歩み寄ったサスケは、すぐ側の自販機で缶コーヒーを購入していたらしく、2つのうちの1つを差し出した。

「サスケってこんなに目上を敬う人だったっけえ?」
「コーヒー返せ」
「嘘嘘、ごめんってばあ……で、どうしたのか聞いてるんだけどお」

どさっと目の前の椅子に腰を降ろしたサスケに視線を寄せる。ねえ、ここサスケの家じゃないよお?っていうか目上を敬ってるのか敬ってないのかイマイチ分かんないしい…カコッと缶コーヒーの蓋をあけると、中身を口に流し込んだ。

「…あの奇抜な蝶はどこ行ったんだよ」
「奇抜って…まあピンクだもんね〜。キーちゃんならさっき薬草取りしてくる〜って飛んでっちゃったから当分帰って来ないかなあ〜。なんでえ?キーちゃんに話し?」
「別にいなくてもいい」
「どういう意味〜?」
「セナに話がある」
「まあ会話の流れからしてそうだよね〜。あ!この間のこと改めて謝りにきたのお?やだあ、サスケったら律儀!そういう男嫌いじゃないわあ〜」
「人の話を聞く気あんのかよこのウスラトンカチが…」

イラッと顔を顰めたサスケに、「やだなあちょっとした冗談じゃない〜」と眉を八の字にさせた。

「…この間俺が受けた媚薬。あれの解毒薬作ってくれねぇか」
「あらま、そんなこと?」
「そんなこと、じゃねぇよバカ。また食らっちまってお前に助け求めるようなことしたくねーんだよ」
「じゃあこの間と同じルートの任務に行くわけだあ?」
「分かってんならいちいち聞くな」
「あのね、人にモノを頼む時にはそれ相応の頼み方っていうのがあるのよお?サスケ」
「お前が言わせたんだろ…」
「仕方ないなあ〜、何してくれる?」
「金は払う」
「お金なんていいよお〜、その代わりちょ〜っとお願いがあるんだけどお」
「…?」

困惑顔を浮かべるサスケににっこりと笑顔を向けると、嫌な予感…と言いたげに口を引きつらせた目の前の男の手を取った。

「またここに手伝いにきてほしいのよお」
「ほんっとにウスラトンカチだなてめぇは!!」








「これ以上はその"体"が限界、もう長くは持たん」

光の遮断された森、逆口寄せされたキンはその一つの木の中で一回り大きい白い蝶々に言葉をかけられ、うつむく様に触角を下げた。

「…そうですか」
「セナには…まだ言っておらんか、その様子だと」
「…」
「お前はさよならも言わずに一度彼女の前から姿を消しとるんだ、"最後"くらいちゃんと自分の口で伝えてやれ…」
「……」
「それが…わざわざ言う必要もないか…"スミレ"」
「あ…、」

彼女の言葉を聞かないまま勝手に逆口寄せを解いた白い蝶々は、"あの日"突然ここに現れた日の彼女を思い出して小さく溜息を吐いた。

2014.08.27

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