初めて膨れた怒りの声

「丁度いい所にっ!サクラちゃんテンゾ…ヤマトの病室知らない?一般病棟に移ったって聞いたんだけどお」
「あ、セナさん…その、ヤマト隊長ならここの部屋なんですけど…」
「え?そうなのお?なんで立ち往生してるのお?」
「実は…ヤマト隊長内鍵かけてるみたいで。健康診断できないんです…」
「んなっ!?何餓鬼みたいなことしんてんのよお、お〜いテンゾウ開けなさ〜い!セナお姉さんが来てあげたよお!!」

1人の看護婦と困ったように顔を見合わせるサクラちゃんを目の前に、私はすたすたとドアへと足を進める。そして唐突に右手を振り下ろすと、大きな音を立ててドアを叩きつけ(殴りつけ)た。

「ちょ、セナさんそんな力いっぱい叩かないでくださいってば!ドア壊れます!」
「サクラちゃんみたいに超怪力女の子じゃないから大丈夫〜!!」
「それ何気失礼ですから!!」
「テ〜ン〜ゾ〜ウ〜!!」

サクラちゃんの怒声もなんのその、ドンドンとドアを叩く手をやめずに何度も声をかけ続ける。途中で「テンゾウって…?ここにいるのヤマト上忍ですよね?」と、こそこそとサクラちゃんに耳打ちしている看護婦の声が聞こえたが、そんなの今更気にしていない。10分程過ぎた頃にはサクラちゃんが看護婦さん達を大丈夫だからと持ち場に戻してくれて、たった今、とうとうサクラちゃんも私に任せてその場から引いてくれた。

「も〜〜!!おいこらテンゾウ!!開けろ〜!!聞こえてるんでしょお!?」

扉をバンバン叩いて取っ手に手をかけてみても開く気配はない。スペアキーとかなんかないの!?って言っても、ロビーまで戻るのすら時間が惜しい!!いくら声をかけても開ける気はないらしく、私はこうなったらと手にチャクラを込める。

「一応私も綱手様の弟子だからねえ、チャクラコントロールには自信があるんですう〜…よおっ!!」

静かな廊下にドゴオオォン!!!と大きな音が響き渡る。近くにいた患者が吃驚した顔でこちらを振り向いたが、そんなのお構いなく穴の空いた扉に足をかけた。ぱらぱらと小さく砕けている壁の奥。そこには、ベッドに横たわったまま大きな目をさらに大きく開けて「この子はなんてことしてるんだい!!?」と言いたげなテンゾウの姿があった。それを見た瞬間、私は怒涛の勢いでベッドに近寄りその胸倉を思いっきり掴み上げた。

「いただっ…!?」
「なに幼稚なことしてんのよおテンゾウ!!!恥じらう乙女でもない癖に内鍵かけるなんて男を疑うっっ!!!」
「なんで、いやセナ、君なんてことを…!!」
「どういうつもり!?私がどうして必死に助けたか分かってんのお!?」
「っ……?!」
「テンゾウに生きてほしかったからでしょお!?あんたが忍に誇りを持ってるの分かってたからでしょお!?なんで私の気持ち無駄にするようなこと言うかなあ!?」
「…5代目から、聞いたんだね…」
「だったら何よお!!!」
「…5代目からどういう風に聞いたか知らないけど、僕は死にたいと言ってるわけじゃないよ。でも、あの場にいなかったセナには分からない…僕は自分の力が及ばずカブトに捕まり、マダラに手を貸したような物だよ、それが分かってるのにまた忍へ復帰しようとは‥簡単に思えないんだ」
「分からない?ばっかじゃないの!?後悔するくらいなら今よりもっと強くなりなさいよお!!それにテンゾウがマダラに手を貸したなんて絶対誰も思ってない!思ってるはずないんだから!!もしも、もしもカカシ達がそんなこと思ってるんだったら私が殴ってあげるわよお!!」
「…!」
「うじうじ悩んでないでさっさとリハビリして完全復活して、私を安心させなさいよ!!じゃないと、許さないんだからあ!!!」

一気にまくし立てて、ぜーはーぜーはーと息を荒くする私を見たテンゾウは、今だ驚いた顔をしたまま呆然と静止している。

何よ、なんか変なこと言った?!掴んでいた胸倉を一層強く握りしめる。すると、ぼんやりと開けていたテンゾウの口から小さく声が漏れた。

「…セナがそんなに大声出して怒鳴るなんてどうしたんだい?」
「どうした?好きな奴の心配して一体何が悪いっていうのお!?」
「!?」

キーンと響く自分の声が、瞬く間に病院の廊下に響き渡る。いろんな物音が聞こえたからなのか大きく空いた穴から人影が見えた瞬間、私は我に返ってテンゾウの胸倉からばっと手を放した。

2014.07.20

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