らしくない選択肢

「綱手様あ、終わりましたよお〜資料作成」
「ああ、ご苦労だったな。今日はもう上がっていいぞ、明日は休暇にしてやる」
「あ〜……はあい」
「…?お前にしては歯切れが悪い返事だな」
「いやあ〜やっとあの大量の本から逃れられると思ったら安心しちゃってえ…」
「珍しく小言も言わずに仕事に向かってたみたいだな。いつもそのくらい真面目だと信用できるんだが?」
「医療忍者としての腕に信用がないっていうんですかあ?」
「馬鹿みたいな身勝手さに信用がないと言ってるんだ」

数日前、綱手様に任された仕事をこなしていた私は、やっと休暇を貰えたことでほっとしたように安堵の溜息を吐いた。患者の診察するよりカルテを書くより最も嫌な資料作成の仕事なんて、本来すっぽかしていてもおかしくないくらいなんだけど、任された仕事をこなす前日に受け取った無名の手紙のおかげもあり、病院(実家)に篭って色々調べていたのだ。

実質歯切れが悪い理由はあの大量の本だけじゃないんだけど。でもそれは、今綱手様に聞くことではないかなあと思ったので笑って誤魔化した、ということ。結局あの手紙が嘘なのか本当なのかは分からず、誰にも話せないまま日は過ぎてしまっていた。

「じゃあ私はこれで〜」
「ああ。あ、おい、ちょっと待て、お前これからヤマトの所に行ったりするか?」
「あっ!行きますう!!全然行けなかったしい!」
「煩い!」
「ぬわっ」

色々なことに支配されていた頭の中は綱手様の言葉で一気にテンゾウでいっぱいになり、思い出したように叫べば綱手様のお叱りが飛んできて驚いた。吃驚したあと一息つくなり元気にしてるかなあテンゾウ、なんて頬が緩む。そんな私とは裏腹に、綱手様の顔は少し強張っていた。

「だったら丁度いい。実はな…先日ヤマトを一般病棟に移動させた時話したんだが…」
「?何をですか?」
「以前のように忍として全うできる身体に戻れるか分からないということだ」
「へっ?だからあ、回復しますってばあ、リハビリをちゃんとすれば…」
「どれだけの時間がかかるか分からないだろう。大体目が覚めて筋肉収縮が少し治まっているだけでも奇跡なんだ、これ以上の回復がない可能性はある。お前もそれくらい分かってるはずだ」
「それはほんの少しの可能性の話しであって、テンゾウにさえやる気があればいくらでも回復の見込みはあるんですよお?」
「まぁ…もちろんそのことも伝えた…が、悩んでるんだよ、アイツが」
「え、え…?」

悩んでるって、どういうこと?リハビリもせずに忍として復帰もしないってこと…?綱手様の苦い顔を見て目を丸くすると、頭に当てていた左手で髪の毛をぐしゃっと掴んだ綱手様は、深い溜息を零していた。

「…第4次忍界大戦の1件でな…敵であった大量のゼツの強化に自分の能力が仇となってしまったと嘆いている。そう思うのであれば自分自身がもっと強くなれと散々言ったんだが…」
「テンゾウが忍に戻りたくないって言ったんですか?」
「そこまでは聞いてない。ヤマトはずっと忍としての人生を歩んできたわけだからな…だが、ヤマトの木遁の能力が故意ではないとは言え加担したことにより、此方側から大量の死人を出してしまったのは事実。先日から誰も部屋に入れないでくださいと勝手なことまで言い始めてる始末だよ」
「なにそれ…ばかじゃないの、テンゾウらしくない!」
「私もそう思っ……て、おいセナまだ話しは終わってないぞ!」
「綱手様は私にテンゾウを説得しろって言いたいんですよね分かります!大丈夫です任せてくださいっ!ぶん殴ってきますう!」
「いやそうなんだが人の話しは落ち着いて聞け!!お前ヤマトの病室がどこか分かっているのか!!」

後ろ手に綱手様の声を聞きながら火影室へと飛び出した。

なにそれなにそれ!なんでこんな短期間の間にそんなことになってるの!?私がなんであんなに頑張ったのかテンゾウ全ッ然分かってない!資料作成なんてしてる場合じゃなかった私の馬鹿!なんて心で叫びながら走ること15分程。遠目に見えたとある病室前に、看護婦さんとサクラちゃんが立ち尽くしていた。

2014.07.07

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