腹の中では何を思う、?

「はい、あ〜ん」
「…セナ、そこの医療忍者が困ってるよ」
「え?ああ、ああ!いいのよお後輩だしい。あ、あとは私が面倒見てるから帰っていいよお!」
「5代目様に仰せつかったお仕事なんです…特にセナ先輩にはさせるなとの通達が…」
「ちょっとお〜先輩の言うことが聞けないのお?」
「いえ、あの、そういうことでは…」

困ったように小さな医療器具の入った箱を抱え込むセナの後輩らしい医療忍者は、どうしたものかと眉を下げていた。目の前では僕が動けないのをいいことに、お粥を掬ったスプーンを差し出すセナ。いや、君はそんなに僕への執着が強い子じゃなかっただろう?なんて思いつつも顔が少しにやけてしまうのは、僕がまだセナのことを好きだという証拠だろう。っていうか、その女性の象徴を強調してくるのはやめてくれないか。僕も男なんだけど。

「深月病院に戻りなよ。僕は大丈夫だから」
「何言ってんのお。テンゾウは私に診られてればいいのお!!」
「だから暗部名で呼ぶなって「こおおらあああセナーー!!」ん?」
「げ、」

僕の口にスプーンを押し付けながら、しっしと後輩を払うセナを聞き覚えのある声が呼んだ。ガチャリと開けられたドアの先から、先日カカシ先輩と一緒に来てくれたサクラと、ピンク色の蝶々が目に映る。随分久しぶりに感じるその蝶の羽は、どこか大きくなっているように見えた。

「あーんーたーはー!!仕事があるのに全ッ然戻ってこないし!!」
「キ、キーちゃん、あはは、久しぶりい、いや私ね、チャクラ切れで…」
「知っとるわァ!!とっくに退院してるでしょうがこのおバカ!!ナナイロヘラクレスの件もあるんだから他の人に任せてとりあえず帰れ!!」

温厚な口調で喋る所しか見たことのなかったセナの口寄せ蝶・キンさんの口の悪さが見えて、思わず僕は口端を引きつらせた。蝶ってあんなに大声で怒鳴るんだね、知らなかったよ…なんて思っていると、ひらひらとした羽を僕に向けて迷わず近寄って来た。表情が分からないから何を言われるのか怖い。

「テンゾウ久しぶりー、ごめんね騒がしくて」
「あ…いや、なんというか、キンさん随分賑やかな性格になりましたね…」
「え?そうかなぁ」
「キーちゃんは怒るとちょっと言葉遣いがアレなんだよお…普段は全然そんなことないけどお…」
「はい、というわけでセナさんヤマト隊長はこっちに任せて自宅に戻ってください」
「サクラちゃんまでえ……うう、分かったよお、ナナイロヘラクレスはシノから頼まれてたもんね…分かったよお…」

観念したようにしゅんとするセナを見て、まるで子犬みたいな目を僕に向ける姿に何故か僕が悪いことしたような錯覚に陥る。なんなんだ急に…というか、セナは僕のことをフった筈なのに、カカシ先輩が変わらず好きなはずなのに、なんで突然ひたすら構うんだ。彼女の考えや行動は本当によくわからない、掴めないよ…。

眉間に皺を寄せている僕を見て、セナはその皺を伸ばすように綺麗な指で触れた。そしてよし、なんて意味の分からない決意を零すと、キンさんを自分の肩に乗せてドアへと歩き出す。

「テンゾウ、またすぐ来るからねえ!」
「だからテンゾウじゃなくて…」

ばひゅんっとその場から消えるように走り去ったセナを見て溜息を吐いた。でも、どんな思惑を持っているかは分からないが、好きな子がまたすぐに会いに来てくれると言ってることは嬉しい限りじゃないか。

「もー、ほんっとにセナさんは……」
「すみませんサクラ先輩…助かりました…」
「私もキンさんがセナさん探してたの見つけたからここまで来ただけだし気にしないで。それよりヤマト隊長、お粥が服に零れてますよ」
「え、ああ!セナはまた中途半端に…!!」

先程口元に押し付けられていたスプーンはいつの間にかセナから手放されていて、スプーンの中にあったお粥は襟元にだらりと垂れていた。呆れたようにまたセナさんかと口を開くサクラは後輩に指示を出すと、その後輩は替えの服でも取りにか部屋から出て行った。

「まあここに来てるだろうなあとは思ってましたしね、セナさん」
「どうしてだい?」
「だって戦争から帰ってきた時からヤマト隊長にべったりだったし」
「昔はあんなにべたべた構ってくれなかったんだけどね。どういう風の吹きまわしかな…」
「さあ、私も知りたいです」

彼女が急いで飛び出した扉を見ながら、僕とサクラは同時に溜息を吐いた。

2014.06.12

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