薬の報酬

「というわけで無事復活しましたしセナにテンゾウの世話させてくださ〜い!」
「…お前な…」

チャクラ切れから4日後、驚異的な速さ(っていうか自分で作った薬を使った為)で回復した私は、家にも帰らずにそのまま綱手様の元へと訪れていた。いやいや〜仕事熱心なのはいいことじゃないですか〜とむんっと意気込みをしていると、別に仕事に熱を上げているわけじゃないだろうが、というような疑いの眼差しを向けられている。うん、そうなんだけどね。

「まあ…というよりまずお前、テンゾウは暗部名だぞ。いつになったら慣れるんだ」
「ヤマトだってコードネームじゃないですかあ〜」
「はァ…お前は個人病院の方もあるだろうが。そっちでも通院患者はいるだろ、ヤマトにばかり手を掛ける暇はないんじゃないか?」
「あ〜それは綱手様がサクラちゃんとか貸してくれれば問題ありませんよお!」
「馬鹿か」
「ええ〜…」

そんなことするかと言わんばかりに私から大袈裟に視線を外した綱手様を見て、私は頬を膨らませた。まあそりゃあ?木の葉病院もまだまだ人員不足ですものね。でも私も個人病院があるのに木の葉病院に手を貸してるのに。酷い…いいんだけどさ。

「ヤマトに専属のナースなんていらん」
「いらないかもしれないですけどお、私は専属のナースになりたいです〜!」
「お前それはヤマトに限りだろ」
「当たり前じゃないですかあ〜」
「帰れ」
「やだ!」

ぴき、と綱手様のこめかみに青筋がたてられたのが見える。いいじゃんかあ、仕事さぼりにきましたっていいにきたわけじゃないんですから〜…とは言えないが、なんとか食いつく私に帰れ、やだ、帰れ、やだの繰り返しが起こり、とうとうしびれを切らした綱手様…の隣のシズネが私の首根っこを掴んでいた。

「シズネなにすんのお!!」
「何すんのお、じゃありません!!滅多に仕事に精を出さない綱手様が張り切ってる時に水をさしに来ないでください!!」
「心外だぞシズネ」
「いえ、こればかりは本当のことですからね!」

トントンを抱き上げたままのシズネが鼻息を荒くしながら力説しているその姿に、私も思わずああ〜なんて納得してしまう。確かに、仕事を放り出さないで綱手様は滅多に見れるものではないからねえ。大方博打で大負けして大人しくしてるだけだろうけど。しかしどうやったら認めてもらえることやら。シズネに追い出されつつある体をなんとか火影室に引き止めつつううんと唸り、閃いた考えに私はぽんっと手を叩いた。

「綱手様、テンゾウに聞いてみましょお!」
「は?」
「テンゾウが専属のナースがほしいって言ったらセナがつく。いらなかったらつかない!これでどおです?」
「聞いてみてもいいが、専属のナースがほしいと言ってもお前をつける気はない!」
「えーーーー!!話が違うよお〜!!!」
「誰がお前の意見に納得したんだよ。ほら、さっさと帰って自分の持ち場に戻れ!!」
「うきーーー!!」

とうとう火影室からぺいっと放り出された体は廊下にべしゃりと崩れ、ドアと言う名の壁に遮断された私はむーうとこれでもかと頬を膨らませて腕組んだ。

「こうなったら勝手にテンゾウの手となり足となってやるんだからあ!!」

その声に、火影室にいた綱手とシズネが呆れるように深く溜息を吐いたことに彼女は気付いていない。








「おっじゃまっしまーすう」

印を結んで結界を解きテンゾウのいる病室のドアを開けると、真っ直ぐに天井を見上げているテンゾウの目がゆっくりこちらに向けられた。ここに出入りしているナースや医療忍者のことは大体把握済みだ。だって私は医療忍者だもの。へーんだ。

「セナ?」
「うん!手土産ないけどごめんねえ?」
「別にいいよ、あっても自分では食べられないしね。…それよりチャクラ切れで倒れてたんだって?まるでカカシ先輩みたいじゃないか」
「やだあ一緒にしないでよお。それに誰の為にチャクラ切れになっちゃったと思ってんのお?」
「僕の為に自分の命削るのはやめてほしかったよ」
「まあ、まあ」
「…セナが、薬作ってくれたんだって?サクラから聞いたよ」
「まあ〜ねえ!でも、やっぱり回復絶好調とは言えないみたいだねえ…」
「意識が戻ったことだけでも奇跡だって診察に来た色んな医療忍者に言われたよ。カカシ先輩にもね」
「あれ?カカシ来たの?いつの間に…」
「…とにかく、僕は君に助けられたわけだし、お礼が先かな。ありがとう、セナ」
「や、やだあ、面と向かって言われても照れるじゃんかあ」

ベッドの上でふんわりと優しく笑うテンゾウに、思わず涙腺が緩んだ。‥ああ、本当に、生きてる。

「……お帰り、テンゾウ」

ゆっくり口を開いて素直に言葉にすれば、一瞬驚いた顔をしてすぐ「ただいま」と嬉しそうに口にしたテンゾウに、今まで必死にやってきたことが少し報われた気がした。

2014.06.01

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