テンゾウ

久しぶりにテンゾウの目を開けた姿を見て思わずずずいっと顔を近付けると、元々大きい目をさらに大きくさせていた。生きてる、目が覚めた、テンゾウが私を見てる!!

「成功だな、セナ」
「は、い…」
「どうだヤマト。身体の方は」
「…全然、動きませんね…というか僕、死んでない…」
「必死こいてたセナに失礼だぞお前。それにそんなに簡単に死なれてたまるか、私達は皆お前を助ける為に動いてたんだからな」
「…よかったあああああぁ〜!!!!」
「ちょ、セナッ…いたたただ!!」

怪我人であるのを忘れて思いっきりテンゾウが横になっているベッドの上にダイブすると、お腹の底から声を絞り上げて叫んだテンゾウ。どうやら劇的に細胞や筋肉が回復するとはいっても、そんなに簡単に身体は動いてくれないらしい。動かしたそうにピクピク動くテンゾウの指先を見て、改めてテンゾウがここにいるということを実感した。

「もお!!心配かけさせないでよねえ!!」
「心配なら上からどいてくれないかな…!」
「おいセナ、最後まできちんと処理しろ。チャクラをヤマトに取り込んでた途中だっただろうが」
「あ!そおだった、あ…?」

ふらりと目の前が霞む。あれ…どうしたの私…?視界がぐらりと揺れて、起き上がろうとベッドから顔を上げたがそのままベッドに逆戻り。回路チューブで薬をテンゾウの体内に取り込んだ後、目覚める可能性が上がるように自分のチャクラを流し続けていたのがどうやら限界に達していたらしい。

待って、待ってよ。テンゾウに今からもっとくだらないことたくさん話すんだから…!そうは思っても閉じていく目は言うことを聞かずにふわりふわりと疲労が誘う。完全に目が閉じる間際に、テンゾウが私の姿を見て酷く困惑した顔を見せていた。

「…チャクラ切れだな。シズネ、セナを空き部屋へ連れてってやれ」
「はい」
「5代目……一体今の状況はどういう…」
「第四次忍界大戦終結後にカカシがなんとかお前を連れ帰ってきたんだよ。チャクラをほとんど使い果たし、意識の混濁、筋肉収縮や経絡経路の損傷もあったか…動かない体、またこれからきちんと動くのかも分からない体だったが、セナが薬を作り見事お前の意識を回復させた。感謝するんだな」
「‥セナが?」
「ああ。しかも、私に薬を作っていることを秘密にしてあのバカは」
「そう、でしたか…」
「まあしかしなんにしても…お前は当面の間忍としての生活は無理だな」
「そうですね…それは僕が1番良く分かります」
「…もう少し回復するまで様子を見よう。色々考えるのはそれからだな…また落ち着いてから回診に来る。寝てろ」
「はい。あの、5代目」
「なんだ?」
「ありがとうございました」
「感謝するならセナにと言っただろ。アイツは私よりも先に新薬を完成させた。テキトーな性格してる癖に本当に憎たらしいよ」
「確かにテキトーなのは間違いないですね…」

苦笑いを返したテンゾウに口角をゆるりと上げた綱手はそのままくるりと背を向けると、片手を上げて颯爽とその場から去って行った。

「忍に戻れるかは…分からんがな」








上忍待機室。いつものように本を読んでいたカカシは、突然バタバタと入ってきた人物へ視線を寄せた。あまりこんな所に出入りなどしないカカシの弟子でもある春野サクラが目に映り、思わず目をぱちぱちとさせると、カカシの目の前で興奮したように声を荒げる。その荒げた声に反応するように本を閉じたカカシは、サクラの告げた言葉を確認するように復唱した。

「え?ヤマトの目が覚めたって?」
「そうなんです、さっき綱手様からそう聞いて…!なんでもセナさんが作った薬の効果がよかったみたいで!」
「そっか、そりゃよかった」
「……カカシ先生あんまり驚いてないですね」
「ま、セナがなーんかしてるのは知ってたからね。なんとなくやってくれるんじゃないかなーとは思ってたのよ」

にこりと笑みを携え、サクラの頭をぽんぽんと撫でたカカシは閉じた本をポーチに直すとのっそりとそこから動き始めた。それを追うようにサクラも続く。

「とかなんとか言って、余裕ありそうな態度取りながらヤマト隊長の所に行くつもりなんでしょ?」
「さあーね」
「心配なら心配だって言えばいいのに…」

呆れた顔を浮かべたサクラは軽く溜息を吐くと、カカシの歩く先がヤマトの病室であるのを確信して、ふっと吹き出した。

2014.05.28

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