諦めなんていやよ

「なんでセナなのお?」

出会った時と変わらないほんわか笑顔で問いかけた君と最後に会ったのは、ナルトの修業に付き合う前だったろうか。

出会った頃、自分の記憶は何もないと口にする彼女の顔が酷く痛々しかった。木の葉には来たばかりで友達なんてもちろんいなくて、3代目火影様が唯一の繋がり。でもそんな繋がりさえも細く脆いものだと君は口にした。それから僕はそんな君のことが気になって、暗部の任務に携わる傍らで君と時間を共にした。孤独でいつも泣きそうな顔をして笑ってた君に、少しずつ惹かれていた。

「…自分が知りたいよお…」


ある日ぽつりと言ったその言葉に突き動かされるように、君は毎日毎日いろんな場所を飛び回った。駄目だと言っているのに火影邸の入室禁止の書物庫に侵入してはいろんな人に怒られて、危険な場所に侵入しては怪我をして帰って来て。

「テンゾウ!見てよお、この資料、セナの故郷!!」

そう嬉しそうに話してくれたかと思えば

「テンゾウ……セナね…コウの里の…」

知ったことを後悔するように話すこともあった。そして僕は、いつの日にか君に恋をしていたことを知った。でもその時には既に遅く、君は僕の先輩に恋をしていたんだ。

「写輪眼のカカシかあ…」


頬をピンクに染めて、ぼんやりと先輩の名前を呼ぶ君にもやもやとした感情。けど君は先輩に恋をしても、真っ直ぐに自分の想いを告げることはなくて。何故か、なんて…僕はずっと君を見ていた筈だったのに、気付けなかったんだ。

「セナ、誰か1人の為にってガラじゃないよお?自分売っちゃってるしい。そんなのテンゾウ嫌でしょお?」

ケタケタ笑いながらそう声に出した君は、突然大声を出して怒った僕をどう思ったんだろう。目を真ん丸にして「吃驚したあ」っていつもの調子で呟いて。それでも僕は君のことを嫌いになんかなれなくて、どうせだったらカカシ先輩と一緒になってくれたらなんて考えても、やっぱり最後には嫌だと思って2人の間に入ったりして。

そしてやはりというか、初めての僕の告白は報われることはなかった。あれから君に会えない日が続いて、気付けば僕は薬師カブトの手に落ちていた。これで僕も終わりだと、ふらつく頭でそう思っていて。

これで、いいと。
あの日、全てを諦める思いで瞼を閉じた。








「……意識反応あります…!!」
「薬の効果でよくチャクラを吸収してる…すごいチャクラの回復力だな…セナ、あまり無理をするなよ。お前のチャクラが無くなるぞ」
「はい!」

何かが体を流れてくる感覚と、見覚えのある声に名前。とうとう未知の世界に到達してしまったのかと重い瞼を持ち上げる。薄らと見えてくる映像からは、眩しい程の白と未だ思いを寄せる人物の必死な顔だった。

「………、…セナ……?」
「……え…」
「………な、んで……」
「テンゾウ!!!!」
「ヤマト…!気分はどうだ?!」

大声を出されたことで一瞬目を細めるも、その隣から吐き出された声の方向へ目線を寄せる。5代目と……シズネ…?こんな所で、何を…。

「テンゾウ、分かる?セナだよ…!」

昔のほんわか笑顔に瞳を潤ませるセナに、これは夢じゃないのかと手を動かそうとしても意思通りに動いてくれない。現実なのかもわからないまま、目の前で3人がバタバタと僕の周りを動き回っていた。

2014.05.25

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